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トイレからの帰り道は、少し小走りとなった。個室の引き戸に手を掛けて「あの、」すぐに口を開けば私を見た新太くんがその前に
「菫花さん、これ、頼んだのでどうぞ」
そう言って濃い琥珀を溶かしたような液体を差し出すから、毒気を抜かれたみたいにすっと腰を落とした。
「酔ってるみたいなんで、すっきりしますよ」
「あ、ありがとう」
「それ飲んだら帰りましょう」
懸念していたことを先に言われてしまうから、頷いて喉に流し込んだ。特有の苦味の後に、ほんのりとした甘い風味が鼻に抜ける。
優しいなぁ、新太くんと一緒にいるとほっとする。
「久しぶりにこういう所のご飯食べれて嬉しかった」
「また行きましょうね」
「……今度は、みんなも一緒にね」
その優しさに安心しちゃったけど……矢張り気を持たせてはいけない。
心を傾ける事はどうやっても出来ないから、新太くんにも失礼だ。
「芸能人って、大変そうですよね」
だけど、突然降ってきた単語に「え」と、顔を上げた。その瞬間、ぐらりと脳が歪んだ気がして視界が揺れる。
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