9本目 かすみ草

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トイレからの帰り道は、少し小走りとなった。個室の引き戸に手を掛けて「あの、」すぐに口を開けば私を見た新太くんがその前に 「菫花さん、これ、頼んだのでどうぞ」 そう言って濃い琥珀を溶かしたような液体を差し出すから、毒気を抜かれたみたいにすっと腰を落とした。 「酔ってるみたいなんで、すっきりしますよ」 「あ、ありがとう」 「それ飲んだら帰りましょう」 懸念していたことを先に言われてしまうから、頷いて喉に流し込んだ。特有の苦味の後に、ほんのりとした甘い風味が鼻に抜ける。 優しいなぁ、新太くんと一緒にいるとほっとする。 「久しぶりにこういう所のご飯食べれて嬉しかった」 「また行きましょうね」 「……今度は、みんなも一緒にね」 その優しさに安心しちゃったけど……矢張り気を持たせてはいけない。 心を傾ける事はどうやっても出来ないから、新太くんにも失礼だ。 「芸能人って、大変そうですよね」 だけど、突然降ってきた単語に「え」と、顔を上げた。その瞬間、ぐらりと脳が歪んだ気がして視界が揺れる。
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