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ぼうっと記憶を掘り起こしては立ち尽くすわたしの身体を新太くんは引き寄せ、ワゴンの中に身体は放り込まれる。
甘ったるい、花の匂いに近い香りが私の鼻腔を突き抜けた。
先輩の匂いじゃない、誰かの香り。
後部座席のシートに座ると、途端に身体から重力が落ちた感覚に陥る。それくらい、身体がだるくて仕方がない。
はぁ、はぁ、と、肩で息をする合間に、何度も深呼吸をしようと試みるけれど、それは全く叶わない。
……苦しい、息をうまく吸い込めない。
開け放たれたドアから私の方へ手を伸ばすその人へ"助けて"言おうとしても、なんだか急に声帯を失ったみたいに声が出ない。
「苦しいですか?」
声の代わりに頷くと、彼は私の髪を掬い耳にかけた。
冷たい指先が火照った耳に当たると、途端に身体が反応して「っあ、」と、息をなぞって声が漏れた。
「楽にして欲しいですか?」
人形みたいに何度も頷く。
その度に下腹部が疼いて、目の奥が勝手に熱を帯びて、涙が滲む。
「良いですよ」
神様へと縋るように顔を上げる。
……視線の先に、緩く瞳が弧を描くその人がいた。
見たことない、知らない人になったみたいで、少しだけ心臓が震える。
「菫花さんが、俺のになってくれるなら」
その顔が、ゆっくりと近寄る、気がした。
だけど、
「菫花は俺のだよ」
………………掠れた声が、私の鼓膜を揺らした
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