1本目 向日葵

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声の主だろう。身なりを整えた初老の男性が花影に佇んでいた。 妙に落ち着いて、気恥しいといった様子もなく、心ここに在らずといった、虚ろげな雰囲気だ。 男性一人で訪れる場合は大抵の想像がつくけれど、このお客様は、どこか違う。 「花束を、お願いしたいのですが」 「花束ですね。どのようなアレンジにしましょう」 「……どのような?」 私の言葉が理解出来ないのだろうか、その人は難しそうな顔をする。 フラワーショップに来るのが初めてなのだろうか。 男性のお客様にはそういった方がよく見受けられるので、彼もそうだと直感的に感じ取る。 ただ、その人にはちゃんと目的があると思ったから、私の心にはほんの少しだけ疑問が残った。 「はい、お好みの花や色、できる限りご要望に沿ったアレンジをしますが……何も無ければ、こちらでお任せも可能です」 違和感の正体を探るべく業務的な説明をすれば、彼は何度か頷いて、やはり首を捻る。 ……勝手に作っても、いいのだろうか。 「実は」 と、その人の口元が動けば、目尻の皺が深くなる。 「……妻の、月命日でして。墓前用にと」
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