1本目 向日葵

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「カーネーションと、かすみ草、メインは白色と、この小ぶりの黄色い向日葵ですね」 手を揃えて丁寧に説明すれば、「どうしてこの花をお選びに?」と、物腰柔らかにその人は言う。なので、私もそれらを再度見つめた。 「かすみ草は「無垢な愛」白いカーネーションは「私の愛は生きています」恋愛にまつわる言葉ですので、奥様へ贈るのにピッタリだと思います」 「……そうですか……」 満足気な笑顔に少しの安心をすれば、再度、中でも一際目立つそれを差した。 「…それから、こちらの花言葉が」 そう言って花束の向きを変えれば、彼へ向かって差し出した。 「あなただけを、見つめる」 言葉を聞いたその人の、皺で囲まれた瞳に涙が滲む。 「空の上に居る奥様へ向かって、届くと思いますよ」 花束は、声にならない言葉を伝えるツールだと教わった。 後に残ることは無いのに、贈る人が耐えないのは、いずれ枯れてしまう儚い美しさに、ささやかな願いを込めて。 そのちっぽけな花たちが、ほんの少しの勇気と、大きな後押しをしてくれるから。
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