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大丈夫、大丈夫。自信を持て、もう大丈夫。
あれは過去のこと、全部、今起きた事じゃない。
あんな人達ばかりじゃない、あの人が教えてくれた。
両手でぎゅっと自分を抱きしめて耐えていれば
『───菫花』
少し掠れた声が甦ると、過去の残像が霧を晴らした。
…………通い慣れた、帰り道。
何時だって、あの人と私の間に障害物は無くって
何時だって、私の歩幅に合わせてくれて
何時だって、手を伸ばせば届く距離にいた。
スラリと背の高い彼の、カフェオレ色の髪の毛は、太陽に浴びれば、夏に咲く花のような色を帯びるから。
『向日葵みたいだね』
一度だけそう例えれば、普段から無表情な彼は、くっと薄い唇を持ち上げ、ニヒルに笑った。
『〝木蓮〟なのに?』
物悲しい笑顔が私の脳内を埋め尽くせば、たちまち指先の震えが小さくなり、喉元に息が蘇る。
「…………先輩…………」
『あなただけを、見つめる』
何時まで、見つめれば
この声は、あなたに届くのだろう。
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