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両頬を自分の手のひらで勢いよくぱちん、と叩くと、脳内を占領していた映像は、一気に消えた。
しかし、あまりの思い切りの良さにそこへ鋭い痛みが走るから、すこしやりすぎたな、と短く後悔をする。
ふよふよと頬を撫でていれば「お疲れ様でーす」と、気前のいい声が耳に届く。
もうそんな時間なのか、慌ててレジへ向かい、ウッド調の棚の上から三段目の引き出しをあけて印鑑を取り出した。
大きなダンボールを両手に抱えた見た目爽やかなその男性は、私を確認すれば朗らかに笑う。
「あれ、菫花さん一人?」
「はい、午前中だけ。潮さん、今日はお休みなんです」
「オーナーは?」
「都内に配達です」
朝の日常業務のひとつ。三枚に渡る納品書とオーナーのメモを照らし合わせて、次々持ち運び出される花の種類を確認する。
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