2715人が本棚に入れています
本棚に追加
そうか、先輩は怒ってくれたのだ。
私のせいなのに、私が助けを求めたのがきっかけだったのに。
彼の奇行の理由が分かると、目の奥がどうしようもなく熱を帯びて、喉の奥が震えた。
『……ごめん、髪。俺のせい』
その人は悔しそうに奥歯を噛み締めて、私の髪の毛に触れる。
泣いているのが切られたせいだと、そう思って欲しくないから『平気です』必死で涙を止めようとした。
でも、彼はその表情を変えないから、中身の少ない頭で正解を探す。
『……先輩は、髪、長い方が好きですか?』
探し当てたものは頓珍漢な言葉だから、急いで『な、なんでもないです』と、首を振った。
『どっちかと言うと、そっちかも』
それでも先輩は律儀に教えてくれて、私に向かって、初めて笑ってくれて。
『じゃあ、また伸ばします』
以来、私は髪を短くすることは無かった。
……多分、私、蓮聖先輩のことを好きになる。
気づいた時には、もう随分と
私の心に、あの人は住み着いていた。
最初のコメントを投稿しよう!