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まずはお客さんに、次におじさんにコーヒーを出して一度お盆を仕舞いに行くと、早速始まっていた。
私はそっとおじさんの横に腰掛ける。
「──それで、どうされましたか? あっ、差し支えなければお名前と年齢もよろしでしょうか?」
おじさんが柔らかい口調で問う。
依頼人の男性が、コーヒーを一口飲んでゆるゆると顔を上げた。
「……狩野礼央と言います。二十五歳です。付き合っていた彼女から、不可解な手紙が来て……そして、連絡が取れないんです。彼女がどこにいるかを探したくて……」
「なるほど、分かりました。お引き受けしましょう」
何でも屋、と言っても引き受ける依頼とそうでないのがある。例えば、宿題を手伝って欲しいという依頼はさっくりと断るし、彼氏が浮気してるかも……と言ったのは知り合いの探偵を紹介する。一度、大嫌いな姑を殺して欲しいという依頼が来たときは、なんとか諭して依頼人を落ち着かせていたな……
コホン、と咳払いをしておじさんは改まった口調で続けた。
「付き合っていた、と仰っていましたが、現在は?」
「距離を置くようになって……俺も、彼女も忙しいし、自然消滅って形でお別れしてます」
彼はそう肩を竦めた。恋愛も大変なんだなぁ、と自分用に入れたカフェオレをすする。高校は共学だが、全く出会いがない。
「そうなんですか。それは互いに納得してますか?」
「彼女は分かりませんけど……俺は、仕方ないと思ってます」
狩野さんは諦めたような力ない笑みを浮かべた。
「……そうですか。じゃあ、不可解な手紙とは?」
「これです……ポストに入ってて」
一枚の紙を狩野さんは差し出した。封筒には入っていなかったようで、少しシワがついている。
「失礼しますね」
B5程のコピー用紙には、ぽつんと中央に『21』と書かれている。そして端には『10/30』。一体どう言う事なのだろうか?
興味深そうにおじさんは頷いた。
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