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「……なるほど。少し、彼女さんについて聞いても?」
「はい」
「そうですね……彼女さんはプライドが高い方ですか?」
「えー、まぁ、高めですね。性格もちょっとキツいですし」
狩野さんは少し苦笑した。彼も付き合っている間は振り回されたのだろう。
「素直に甘えたり、助けを求めるのも苦手ですか?」
「あ、そうです。俺ら、大学時代から付き合っているんですけど、昔、彼女がバイト先で人間関係でトラブっちゃって。
辛いはずなのに俺含め誰にも相談してなくて……もう本当にヤバイ、ってなってようやく打ち明けてくれました」
おじさんは真剣な表情でうなずく。
記憶力が優れているおじさんは、必要な情報を脳内で整理しているのだろう。おじさんは四十代だが、仕事をしているおじさんはとてもカッコいい。イケおじ、というやつだ。
ついでに言えば、私の初恋の相手はおじさんだ。と言っても、既婚者だと知ってからは諦めた。でも、未だに尊敬していて恋愛的な好き、というより人として大好きだ。
「──話は変わりますが、お二人の思い出の場所はありますか?」
「思い出、ですか……そうだなぁ……うーん……あっ、社会人になってからは行ってないんですけど、昔、よく有明西ふ公園に行ってました」
「有明西ふ公園ですか。あそこ夜景綺麗ですよね」
おじさんはそう微笑を浮かべた。奥さんである由宇ちゃんとの有明西ふ公園で撮ったツーショットは給湯室に飾ってある。由宇ちゃんは料理教室の先生で、幼い頃『由宇おばちゃん』と言ったらこっぴどく怒られ、由宇ちゃんと呼んでいる。
有明西ふ公園はそこまで遠くない。車で小一時間程だから、私も家族とたまに行くし、おじさんを含めて如月一家でドライブすることもある。私のお父さんとおじさんは兄弟なのだ。
「そうですね。懐かしいなぁ……」
狩野さんは遠い目をして呟いた。
もしかしたら、彼女さんと別れたくなかったのかもしれない。
おじさんはコーヒーを飲み切ると、ゆっくりと口を開いた。
「僕の想像もあると思いますが……見解をお伝えします」
「えっ、もう分かったんですか?」
驚いたように狩野さんは顔を上げた。
「はい。ただ、僕の予想でしかないので、事実の確認は出来ません。それは狩野さんがしてください。それでもいいですか?」
「……はい」
狩野さんは神妙な面持ちでうなずいた。
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