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それは商店街の隅にひっそりと佇んでいる。
私は制服のスカートをはためかせながら、商店街を走り抜けた。
夕暮れの空の下、カツカツとローファーの音が響いた。
あっという間について、そっと息を整える。
扉の横には小さな看板が掲げられている。──『如月相談所』と。
ワクワクする気持ちを少し落ち着かせる為に、ゆっくりとアンティークな扉を開けて、店に入った。
ワンテンポ遅れて、カランとドアベルが鳴る。私は声を張り上げた。
「おじさん、ただい……あっ、ごめんなさい。いらっしゃいませ」
「あっ……すみません。うちの姪が失礼しました。明莉、挨拶するのはいいことだけど、周りを見なさい」
お客さんと思われる男性が困惑した笑みを浮かべていた。
歳は二十代程だろうか、顔立ちは整っているが、どこか思い詰めているような雰囲気でもある。
お客さんがいないと思って、勢いよく入ったら実は接客中……という事が度々あり、毎度注意されている。気をつけなきゃ、と思っていても、ここ、如月相談所が楽しみすぎて忘れてしまう。
私が大好きなこのお店は一見少し古びたカフェに見える。
だが、ここは叔父である如月楓が経営する、何でも屋だ。そんな如月相談所ではたまに不思議な依頼が舞い込んでくる。
「明莉、悪いんだけど、お茶入れてくれる? ──コーヒー飲めますか?」
おじさんは優雅な笑みを浮かべた。
まだ驚いた表情を浮かべながらお客さんはうなずいた。
「あ、はい」
「よろこんで!」
「……居酒屋じゃないんだけど」
おじさんがポツリと漏らした事は無視して、奥にある給湯室へ向かった。
給湯室、と言ってもお茶類だけでなく様々なものが置かれている。写真に資料、荷物などだ。
週三回、私は如月相談所でバイトをしている。バイトといってもたいそうなものではなく、掃除や接客の手伝いといった簡単なものばかりなのだが。
リュックを隅に置き、制服の上からエプロンをして、お湯を沸かす。
ケトルとドリッパーを用意して、お湯を入れ温めた。温めたらそのお湯をマグカップに移して、これまた温める。
そして、紙のフィルターをドリッパーに装着して、美味しいと有名なコーヒー粉を入れた。
クルクルとケトルを回しながら淹れて、少し間を置き再びお湯を入れる。
それを繰り返し、マグのお湯を捨てて、トポトポ……と注いでいく。よし、完成だ。
トレーにスティックシュガーとミルクを置いて、慎重にお客さんのところに運んで行った。
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