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「奥さん……」
玲奈と凌牙を交互に見たあと、「なんかすいません。タイミング悪くて」彰人は長身の身体をこれ以上ないぼど縮め、申し訳なさそうに頭を下げた。
彰人は、玲奈たち西島家のお隣さんだ。
といっても、お隣歴はまだ一週間と日は浅い。
以前住んでいた住民が海外赴任することになり、急遽家を売りに出したところ、ちょうど戸建て住宅を探していた彰人の目に留まったのだ。
「ほんと、ラッキーでした。おまけにこんな素敵なご夫妻がお隣さんだなんて」
いかにも人のよさそうな顔で手土産のタオル片手に挨拶に来たのが一週間前。
そして今日、ようやく家が片付いたからと二人を自宅に招き、引っ越し蕎麦を振舞ってくれたのだった。
蕎麦とよく合うという日本酒まで用意してもらったのに、未だ体調のすぐれない玲奈は、さすがに飲む気になれなかった。
「私のことは気にせず、どうぞ二人でやってください」
両手を上に向け二人を促す玲奈に「すいません」とひと声かけると、「じゃ、遠慮なく」再び徳利を手に取り、彰人は凌牙に差し出した。
「すいません」
凌牙が肩をすくませ、それを受ける。
今度はその徳利を凌牙が受け取り、「藤堂さんも」と彰人に差し出した。
「すいません」
彰人がお猪口を手に、肩をすくめる。
ぷっと突然、玲奈が吹き出した。
「さっきから謝ってばっかり」
「あ」
「確かに」
凌牙と彰人は互いに顔を見合わせ、「すいません」同時に頭を下げた。
「また」
堪らず玲奈が笑い出す。それを見て、凌牙と彰人も声を上げて笑った。
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