隣人

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隣人

 その日玲奈(れな)は、夫の不貞行為を目撃した。  パソコン画面の中で激しく絡み合う男女のあられもない姿。  女に組み敷かれ、何度も腰を突き上げている男が自分の夫だと気付いたのは、女がその名を呼んだからだ。  女は大きく体を反らせ、いやらしく腰を揺らしながら、「凌牙(りょうが)さん」そう言ったのだ。  映像はこれだけだった。 「なにこれ……」  画面の中のフォルダを見つめたまま、玲奈はしばらく動けずにいた。  玲奈が凌牙と出会ったのは、大学一年の夏だった。  友人に誘われて嫌々顔を出した他校のテニスサークル。そこに、凌牙がいたのだ。  すぐに意気投合した二人は、自然な流れで交際し、卒業と同時に結婚した。  その後アパレル会社に二年ほど勤めた玲奈だったが、昨年、妊活のため退職。  現在妊娠三ヶ月だ。 「うっ……っ!」  突然強い吐き気を覚え、玲奈はトイレに駆け込んだ。  初めての妊娠。日増しに重くなる悪阻(つわり)。  ただでさえも辛くて不安な日々の中、突如舞い込んできたこの悪意の塊は、青天の霹靂(へきれき)のごとく玲奈の心を打ち砕いた。 「凌牙……。なんで……?」  口元をトイレットペーパーで拭きながら、玲奈は大きく息をする。  ぐにゃりと歪んだ瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。  夫に裏切られた哀しみと、どこかで嘲笑っているであろう女に対する憎しみと、たった一人で悪阻(つわり)と戦わねばならない悔しさで、玲奈の心はぐちゃぐちゃだった。  何度も胃液を吐き出しながら、玲奈は声をあげて泣いた。
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