隣人

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「そういえば」  ひとしきり笑ったあと、思い付いたように玲奈が切り出した。 「藤堂さん、お仕事は何を?」 「僕ですか?」  蕎麦をひと玉箸ですくうと、「何に見えます?」いたずらっぽく彰人は口の端を持ち上げた。 「ええ? なんだろ?」  背もたれに身体を預け腕組みすると、玲奈は彰人をまじまじと眺めた。  どちらかと言えば細身の体つき。すらりと伸びたしなやかな手足は、力仕事には向かなそうだ。  人当たりの良い穏やかな口調と柔和な笑顔は、相手に心地よい印象を与える。 「先生」 「先生?」 「はい。保健室の先生。女生徒が意味もなく通いそう」 「それは楽しそうですね」  いやらしく目元を歪めると、彰人はハハっと笑った。 「違いました?」 「はい。残念ながら」 「そっかぁ。自信あったのに」  実に悔しそうに、玲奈が溜息をつく。  ふっと頬を緩めると、「グラフィックデザイナーですよ」彰人は大きく音を立て、一気に蕎麦をすすった。 「グラフィックデザイナー!」  瞳を輝かせ、玲奈が僅かに身を乗り出す。 「かっこいいですね」 「そうですか?」  若干身を引き、彰人は人差し指で額を掻いた。 「どんなの作ってるんですか?」 「どんなのって……」 「おい、いい加減にしろよ」  失礼だろ? と凌牙が咎める。 「だって……」  興味あるんだもん、と玲奈は口を尖らせた。
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