隣人

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「大丈夫です。ちょうど最近作ったばかりのチラシがあるんで」 「チラシ?」 「はい。先日オープンしたイタリアンの店なんですけど」 「そんなのも作るんですか?」 「そんなのって……」  困ったように、彰人が眉を寄せる。 「あ、すいません」  両手を口に当て、玲奈が首をすくめた。  いえいえ、と右手をパタつかせ、「ですよね」と彰人は皮肉な笑みを浮かべた。 「グラフィックデザイナーと聞くと、なんとなくかっこいいイメージありますよね。よくCGデザイナーと混同されます」 「違うんですか?」 「全然違いますよ。CGデザイナーは、コンピューターグラフィックスを作る仕事で、主に映画やゲーム、アニメなどの映像作品を制作しますが、グラフィックデザイナーは、ポスターや雑誌の広告、商品パッケージなど、主に印刷物をデザインする仕事なんです」 「なるほど」  知らなかった、と玲奈は瞳を丸くした。 「前は企業に所属していたんですが、昨年独立して、今はフリーランスでやってます」 「そうなんですか」 「とはいえ、独立してまだ間もないので、今のところ、顧客のほとんどが以前勤めていた会社関係なんですけどね」  ちょっと待ってください、と席を立つと、彰人はリビングテーブルに置かれた一枚のチラシを持って来た。 「これがその、前の会社繋がりで回してもらった仕事なんですけど」 「あ! ここ、川沿いにできた新しいお店!」  チラシを受け取り、玲奈は興奮したようにそれを見つめた。 「ご存知ですか?」 「知ってるもなにも、最近ご近所で噂になってますよ。すごくお洒落なお店ができたって」 「そうなんですか。だったらわざわざ宣伝することもなかったな」  彰人は頭の後ろに両手を組むと、残念そうに顔をしかめた。 「宣伝?」 「ええ。実はお二人がいらっしゃる前に、そこに仕込んどいたんですよ。食後のデザートを出すタイミングで目につくように」  ダイニングテーブルを指差し、彰人は悪戯っぽく舌を出した。
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