231人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
隣人
その日玲奈は、夫の不貞行為を目撃した。
パソコン画面の中で激しく絡み合う男女のあられもない姿。
女に組み敷かれ、何度も腰を突き上げている男が自分の夫だと気付いたのは、女がその名を呼んだからだ。
女は大きく体を反らせ、いやらしく腰を揺らしながら、「凌牙さん」そう言ったのだ。
映像はこれだけだった。
「なにこれ……」
画面の中のフォルダを見つめたまま、玲奈はしばらく動けずにいた。
玲奈が凌牙と出会ったのは、大学一年の夏だった。
友人に誘われて嫌々顔を出した他校のテニスサークル。そこに、凌牙がいたのだ。
すぐに意気投合した二人は、自然な流れで交際し、卒業と同時に結婚した。
その後アパレル会社に二年ほど勤めた玲奈だったが、昨年、妊活のため退職。
現在妊娠三ヶ月だ。
「うっ……っ!」
突然強い吐き気を覚え、玲奈はトイレに駆け込んだ。
初めての妊娠。日増しに重くなる悪阻。
ただでさえも辛くて不安な日々の中、突如舞い込んできたこの悪意の塊は、青天の霹靂のごとく玲奈の心を打ち砕いた。
「凌牙……。なんで……?」
口元をトイレットペーパーで拭きながら、玲奈は大きく息をする。
ぐにゃりと歪んだ瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
夫に裏切られた哀しみと、どこかで嘲笑っているであろう女に対する憎しみと、たった一人で悪阻と戦わねばならない悔しさで、玲奈の心はぐちゃぐちゃだった。
何度も胃液を吐き出しながら、玲奈は声をあげて泣いた。
最初のコメントを投稿しよう!