寄り添うということ

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 しばらく佐伯さんの様子を見守った後、煌は自分も社長に話しに行ってくると、一度病院を出た。  私は高橋さんから、“ひだまりの方は何とかなるから佐伯さんのそばにいてあげて”と言ってもらえていたので、そのまま病室に残ることにした。  目を瞑ったまま、安らかに呼吸している佐伯さん。こうして見ていると、普段通り眠っているだけのように思える。  どうか目を覚まして、いつもの笑顔を見せてくれることを、祈らずにはいられなかった。  控えめに聞こえたノックの音。  そこに現れたのは、神妙な顔つきの光里ちゃんだった。 「……高橋さんに頼まれて、佐伯さんの荷物持ってきました」 「……ありがとう」  確か前にもこんなことがあったなと、変なところで懐かしさを感じた。  だけど今日の光里ちゃんからは、悪意のような雰囲気は感じなかった。 「……佐伯さん、症状重いんですか?」 「……うん」  詳しく伝えるのもどうかと思ったので、俯いて頷くのみだった。 「……私のせいかもしれない」  思っても見なかった弱々しい彼女の言葉に驚く。光里ちゃんは、至極苦しい表情で佐伯さんを見つめていた。 「今朝、佐伯さんが体調悪そうなの、気づいていたのに。もっと早く、伝えていれば」  私と同じようなことを考えている光里ちゃんが、妙に愛しく感じた。  そうだ。この仕事をしていると、誰しも直面する悩みがある。  利用者さんに何かあった時、自分がもっとこうしていればと自らを責めてしまう。  そしてそれは彼女も例外ではなかったことに、とても安心している自分がいる。 「光里ちゃんのせいじゃないよ。私だって、もっと前からよく体調を観察するべきだった」  まさか彼女と、こんなふうに同じ悩みを共有する時がくるなんて。  そこにはもう、わだかまりなんてなくて。  光里ちゃんに対しての嫌悪感や不信感なんてものも消え失せていた。 「これ、ベッドテーブルのところに置いてありました」  光里ちゃんに手渡された二つの桃色の封筒。ひとつは煌宛に、そしてもうひとつは、「美月さんへ」と記されていた。  もしかして今朝病室に行った時、佐伯さんが書いていたものだろうか。  光里ちゃんが病室を出ると、震えた手で封筒の中身を取り出した。
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