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病院に着いた頃には、もう佐伯さんは昏睡状態で、とても話ができるどころではなかった。
冷や汗と悪寒、嫌な動悸と震えに耐えながら、煌が到着するのを待った。
『容態の詳しい説明は、まずご家族に』という医師の言葉が、余計に不安を増長させる。
どうか。どうか。
両手をお腹の前で握りながら、祈るように佐伯さんの寝顔を見つめ続けていると、勢いよく病室の扉が開いた。
「ばあちゃん!!」
血相を変えて息を荒くさせている煌と、青ざめている蓮沼さん。
二人に会うのは久しぶりだったけれど、微笑み合うような状況ではなく、皆表情は固かった。
「ついていてくれてありがとう、美月」
それでも私を気遣って、必死に眉を下げてくれる煌。
側にいたのに気づくのが遅れてしまったこと、何もできなかったことの罪悪感で、胸が締め付けられて言葉がひとつもでなかった。
心配そうに佐伯さんを見つめる煌を見ていられなくて、情けなく目を伏せる。
「煌、先生の説明受けにいかないと」
「……ああ」
蓮沼さんに促される煌。病室内に緊張感が漂う。
それぞれが、それぞれの覚悟をしているようにも思えた。
「……美月も一緒に来てくれない?」
「私も……?」
「一緒に聞いてほしい」
不安げに瞳を揺らす煌に、私は頷いた。
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