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多香子ははっとしてベッドから飛び起きた。
「夢か」
そうつぶやいた瞬間スマホのタイムアラームが鳴る。ベッドから出て夏用の制服に着替え、バッグの中の教科書がそろっているか確認する。
一階へ下り、洗面所で身支度を済ませ、リビングへ入ると父親がテレビのニュースを見ながらコーヒーを淹れていた。ニュースはこう伝えていた。
「昨晩、沖縄県石垣市の三角諸島沖で沈没した中国海警の船舶の乗組員は全員が海上保安庁によって救助されました。中国は三角諸島の領有権を以前から主張しており、今回の沈没は日本側の攻撃である可能性があるとして、日本政府に調査を要求しています」
多香子は父親からコーヒーカップを受け取りながら訊いた。
「これって石垣島の近くだよね?」
父親もテレビの画面に気を取られながら朝食の皿を並べる。
「ああ、そうだ。もう11年前になるか、あの時の騒ぎから」
「そっか、このせいだ。昨日このニュース見たから、昔の事を夢に見たんだな」
「そうだ、お母さんから昨日突然連絡があってな。近いうちに日本に来るかもしれんそうだ」
「ええ? 日本に帰って来て大丈夫なの? 入国した途端に逮捕されたりしない?」
「ははは、それはないだろう。あの後、正式にアメリカの政府系の研究機関に転職したんだからな。まったく何をやっているんだか、あのマッドサイエンティストは? 多香子はちゃんとした仕事に就くんだぞ。受験は決まったか?」
「まだ早いよ、お父さん。花の高2なんだから、今は青春謳歌しなきゃ」
多香子が一足先に自宅マンションの外へ出ると、まばゆい夏の光が東京の上に降り注いでいた。
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