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同時刻の首相官邸。閣議の最中に秘書が総理大臣に耳打ちする。総理は立ち上がって大臣たちに告げた。
「すまんが、閣議は一時中断する。アメリカ大統領から緊急の電話会談の要請が来た」
官邸の別室で総理は電話の受話器を取った。横に控えている通訳が相手の言葉を総理のヘッドセットに伝える。それを聞いた総理は青ざめた。
「何ですと! 核兵器を使う? いや待って下さい、大統領。これは我が国の問題であり……」
約十分後、総理は再び大臣たちを招集し、彼らに伝えた。
「あの巨大生物を我が国が処理できない場合、戦術小型核ミサイルを使用すると、米国大統領から通告された」
防衛大臣が身を乗り出した。
「そんな横暴な! 米国は自衛隊を信用できないと言うのか?」
総理は力なく答える。
「あの巨大生物が太平洋を越えてアメリカ西海岸に到達したら……米国政府はそれを恐れているようだ」
他の大臣たちも堰を切ったように声を上げた。
「なぜ11年も、影も形も見せなかった巨大生物が、今になって現れたんだ? なぜ日本本土へまっすぐ向かってくる?」
「何かの目的があるはずだが」
「何が目的であろうが、あんな巨大な生物が人口密集地を歩き回ったら、甚大な被害が出るのは目に見えている」
防衛大臣に秘書官が何かを耳打ちした。防衛大臣は小声で「通せ」と指示した。
秘書官がドアを開き、多香子の母親が威風堂々と部屋に入って来た。防衛大臣が他の閣僚に告げる。
「みなさん、米国政府から派遣された戦略アドバイザーです」
総理大臣が彼女を見て苦々しげに言った。
「神崎教授、あんたか!」
神崎はニヤニヤしながら挑発的に言う。
「お久しぶり。あなたが防衛大臣だった頃以来ね。あいさつは抜きにして、要点だけ言うわ。あれは昔あたしが遺伝子操作で作った、人工生物。世話をしていたあたしの娘は『えぶ』って呼んでた。
「えぶ? 何か意味があるのかね?」
「Evolution Boosted Ultimate. 日本語に訳せば、進化を加速させた最終形態ってとこね。略してEBU。これを子どもが発音したんで、えぶ」
神崎教授の説明が続き、閣僚たちは驚愕の表情で聞き入った。話が一通り終わったところで、総理大臣が厳かな口調で言った。
「名前が必要だな。今後あの巨大生物を『エブラ』と呼称する」
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