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防衛省の賓客用の部屋で、多香子と父親が所在無さげにソファに座っている。母親の神崎教授と防衛大臣、統合幕僚幹部議長が部屋に入って来た。
父親が立ち上がって三人に詰め寄った。
「これは一体、どういう事なんだ? どうして今さら多香子を巻き込む?」
神崎教授が答える。
「あの巨大生物、エブラは多香子の所へ来るつもりなのよ」
多香子もソファから立ち上がって叫んだ。
「あの怪獣は、えぶちゃんなの?」
「そう。エブラにはテレパシー能力があるの。多香子のいる場所が正確に分かるんだわ」
「でも、どうして今になって姿を現したの?」
「そこだけが謎なのよ。生まれたばかりのエブラに餌をあげたり、体を洗ってあげたり、世話をしていたのは多香子だから、あなたの事をお母さんだと思っているのかもしれないわね。でも、なぜ今なのか、の説明にはならない」
防衛大臣が口を開いた。
「そこで神崎多香子さん、あなたに協力をお願いしたい。なるべく被害の出ない場所にエブラを誘導し、自衛隊が迎撃します。あなたには、その場所へ移動していただきたい」
父親がさらに詰め寄った。
「うちの娘を囮に使う気か?!」
神崎教授が割って入る。
「あなた、落ち着いて。エブラが多香子に危害を加える意図はないはずよ。エブラの意図が何かが分かって、それを解決できたら、海に戻ってくれるかもしれない」
父親はまだ怒りで体を震わせながら訊いた。
「それでどこへ連れて行くんだ?」
統幕議長が脇に抱えていたタブレットの画面を父親と多香子に見せた。父親がつぶやく。
「お台場?」
統幕議長が言葉を続ける。
「住宅地の市民の避難は既に始まっています。ここなら島ですから、レインボーブリッジを封鎖して最終防衛線を張ります。無論、娘さんの身の安全は自衛隊の総力を挙げて確保いたします」
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