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実のところ彼女には彼氏がいて、それはもう学年公認な程の事実で、だから僕は、鈍感なふりをして彼女に近づくことも出来なくて。
同じクラスで。隣の席で。
仲良くなることなんて、簡単な事なのにな。
本当は分かっていた。
僕は。
友達になりたいわけじゃない。
僕はそんな、安全な立場を望んではいない。
そんなその他大勢の一員じゃなくて。
もっと、もっと特別な……
なんてな。
いい訳だな。ただの。
なけなしのプライドが無駄に主張してるだけ。
他愛無い話で時間つぶしたり、ばかな事やって笑ったり、したくない訳ないじゃないか。
朝の小さなひとことだって。それだけで。
眠くてだるい日々に、そっと灯りが燈るのに。
諦められたら楽だろうになぁ…
下らない話をして笑ったりして、いつも寝ている彼女にノート貸したりなんかして、でも何故か僕よりも成績のいい彼女に教えてもらったりして。
きっと、楽しい。きっと、とても、楽しいだろう。
僕は時々考える。
簡単な事なんだ。彼女を遠ざけているのは僕の方なのだろう。彼女は気さくなタイプでクラスの男子とだって仲良いし、僕だって別に女子が苦手なわけでもない。普通に仲良い女子だってそれなりにいる。
僕はただ、彼女にだけ戸惑っている。
そう、彼女だけが特別。
限りなくゼロに近い可能性がゼロではないせいで、僕は上手く振舞えない。
今この瞬間だけでもいい。
特別な自分になりたかった。
君に対して唯一の。
ずっと君を見てきたんだ。
君の瞳が、僕を映さないと分かっていても。
ありえない、と否定しながら、僕は確かに探していた。
そうして見つけた君の横顔。
今、眠っている君を見つめているのは、きっと、世界で、僕一人。
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