教室

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 実のところ彼女には彼氏がいて、それはもう学年公認な程の事実で、だから僕は、鈍感なふりをして彼女に近づくことも出来なくて。  同じクラスで。隣の席で。  仲良くなることなんて、簡単な事なのにな。  本当は分かっていた。  僕は。  友達になりたいわけじゃない。  僕はそんな、安全な立場を望んではいない。  そんなその他大勢の一員じゃなくて。  もっと、もっと特別な……  なんてな。  いい訳だな。ただの。  なけなしのプライドが無駄に主張してるだけ。  他愛無い話で時間つぶしたり、ばかな事やって笑ったり、したくない訳ないじゃないか。  朝の小さなひとことだって。それだけで。  眠くてだるい日々に、そっと灯りが燈るのに。  諦められたら楽だろうになぁ…  下らない話をして笑ったりして、いつも寝ている彼女にノート貸したりなんかして、でも何故か僕よりも成績のいい彼女に教えてもらったりして。  きっと、楽しい。きっと、とても、楽しいだろう。  僕は時々考える。  簡単な事なんだ。彼女を遠ざけているのは僕の方なのだろう。彼女は気さくなタイプでクラスの男子とだって仲良いし、僕だって別に女子が苦手なわけでもない。普通に仲良い女子だってそれなりにいる。  僕はただ、彼女にだけ戸惑っている。  そう、彼女だけが特別。  限りなくゼロに近い可能性がゼロではないせいで、僕は上手く振舞えない。    今この瞬間だけでもいい。  特別な自分になりたかった。  君に対して唯一の。  ずっと君を見てきたんだ。  君の瞳が、僕を映さないと分かっていても。  ありえない、と否定しながら、僕は確かに探していた。  そうして見つけた君の横顔。  今、眠っている君を見つめているのは、きっと、世界で、僕一人。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加