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おまじない
それから、数週間後。俺は寝たきりの生活になってしまった。病気のせいで、痛みよりも二人に会える時間が減ってしまったことに辛さを感じた。
痛みはオルゴールが和らいでくれている。何時でも聴けるようにと、手元に置いてくれたのが彼女だ。それが彼女の優しさだ。そうするように言ったのは俺だ。自分が我がままだなと思った。
「ぱぱ、だいじょうぶ?」
不意に奏が部屋に入ってくるとともに大きな声で声を掛けてくれた。小さい子どもは本当に元気だなと思う。その後ろには彼女がいた。彼女は奏に病院では静かにと注意したが、俺は気にならなかった。
他に人がいれば迷惑だろうが、ここは個室だ。まあ、廊下まで聞こえる声だったから注意するのは当たり前か。
「ぱぱ、いたい?」
「大丈夫って言いたいが、痛いな」
子どもに嘘をつくと、簡単にバレてしまうもんだ。だから、ここは正直に言った。すると、奏の動きが止まった。何かを考えているんだな。かと思えば、不意に手を出し俺の手を握った。小さな手なのに力は強い。
「いたいのいたいのとんでゆけ!」
奏は俺の手を握ったまま、大きく振り回した。俺は驚くことはなかった。子どもの行動はいつも突然に起こる。予想外の行動に驚いていたら、身体がもたないからな。ただ、大きく振り回すもんだから、痛いな。仕方ない。
「奏、ありがとう。痛くなくなった」
「ほんとう? かなでのおまじないきいた! まま、みてた?」
奏と俺は彼女に視線を向けた。そこで気付いた。彼女は泣いていた。俺たちに気付くと、目を擦って鼻を啜り始めた。
「見てたよ。奏、凄いね! もしかしたら、なんでも治しちゃう力を持ってるかもしれないね」
おいおい、それは言い過ぎだろと思いながらも口には出さなかった。彼女は知ってるんだろうな。俺が長くないことを。
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