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「ただいまー」
「おかえりなさい」
妖怪の学校から帰って、玄関で靴を脱いでいると、お母さんが言った。
「風翔、妖警備隊の本部から郵便が届いているわよ」
え? 本部から? 何だろう、お父さんに何かあった……いや、それはないね。なら何だろう。一抹の不安を覚えつつ、ダンボール箱を確認する。
「僕宛てだ……」
妖警備隊は、モノノケと呼ばれる我を失い、凶暴化した妖怪から人間を守る為の組織だ。警察と似ているが、警備隊は人を守る為の組織で、モノノケを罰するのが目的ではない。
本部が中心になっていて、各隊に指示を出したりしている。その本部から僕に……。
「な、なんだろう」
唾を飲みこんで、おそるおそるガムテープをハサミで切る。お父さんも、他の県で警備隊で働いているけど、僕は入ってない。……もしかして。ダンボールを開けると、少し分厚い紙と目が合った。
『緑神風翔殿 貴殿を妖警備隊、第一部隊隊長に任命する』
そう、はっきりと筆で書かれていた。た、た……。
「隊長!?」
突然目がおかしくなったんじゃないかと、目をこする。ありえない、僕が第一部隊の隊長なんて……。
「う、嘘だよね」
何度目をこすっても、何度読み返しても、書いてあることは変わらない。そうだ、これは夢だ。夢、だよね? ぎゅうっと頬をつねってみる。これが現実なわけが……。
「いっ、痛い痛い痛い痛い!」
ど、どうやら僕は、本当に妖警備隊の第一部隊、隊長に選ばれたらしい。
「警備隊はともかく、何で第一部隊なんだろう。それも、隊長だなんて」
妖警備隊には、十の部隊がある。数字が小さいほど、優秀な妖怪が集まっていて、その分有名だ。第一部隊は最も有名で、警備隊では一番強い部隊とされる。あぁ、考えれば考えるほど、僕が選ばれた理由が分からない。
「あっ、手紙が入ってる」
少し分厚い紙をダンボールから取り出すと、下に手紙と小さい箱、学ランが入っていた。一応、全部に目を通しておこう。
手紙には、僕が隊長に選ばれたこと、前の隊長さんからネックレスを受け取らないといけないこと、来週から人間の学校に転校することが書かれていた。
「来週までに、全部しないといけないのか。うぅ、やるしかないよね」
ため息を一つ吐いて、お母さんに説明した。お母さんは喜んでくれたけど、正直まだ信じられない。
「第一部隊は、僕を入れて四人か」
手紙に入っていた名簿を見る。僕の名前の下に、見知った名前が書かれてるんだけど……。
「水希くんもか……他の隊員は、僕を認めてくれるのかな」
ずしっと不安がのしかかってくる。お父さんが、ここにいた時は第二部隊だったっけ。ますます信じられなくなってきて、ベッドに転がる。
「どれだけ自信が無くても、他の妖怪にそれを見せたらいけない。なめられていたら、この仕事は務まらない……か」
お父さんが、何度も僕に言っていたことを思い出す。こうなったら、やるしかないのかな。
「頑張ろう」
ぽつりと零れた小さな声は、空気に溶けていった。
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