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「えっと、忘れ物はないよね。うん」
本部から配られたキャンディーを、口に入れる。これで、人間にも見えるようになるんだよね。噛み砕いて、ごくりと飲み込む。体に異常はないね。
今日から、第一部隊は人間の学校に通うことになっているんだ。人間の勉強もしないといけないんだよね……できるかな。
「風翔、頑張ってね」
お母さんが、ガッツポーズを作って言った。
「うん!」
海西台第一中学校、通称、第一中の制服に袖を通す。確か、学ランって言うんだっけ。
あぁ、そうだ。見えないように、シャツの襟に付けたバッジに触れる。これは、妖警備隊に所属している証なんだ。あと、これを使えば同じ部隊の妖怪にテレパシーを送ることができる。
『おはようございます。風翔です。今日から、よろしくお願いします』
意識を集中させて、第一部隊の隊員にテレパシーを送る。上手くいったかな。
「よし、行ってきます!」
黒い翼を出して、人の街の方に飛んでいく。歩くと遠いからね。人に見られないように気を付けないと。
確か、第一部隊の隊員は二手に分かれて、それぞれ第一中、第二中(海西台第二中学校)に行くんだっけ。俺と水希くんが第一中で、朝火くんと氷真くんが第二中だったね。
「お、見えてきた」
人の街の近くに着地して、第一中の場所を地図で確認する。
「あっちかな」
方角を確認して、足を踏み出した時、聞き覚えのある声が背中の方からした。
「やっぱり。風翔さーーん!!」
振り向くと、長い黒髪を持つ男子が走ってきていた。あぁ、あのシルエットは……。
「おはようございます。風翔さん」
「う、うん。おはよう。水希くん」
水希くんは、満面の笑みを浮かべている。まさか、ここで会うとは。
「水希で良いって言ってるじゃないですか。風翔隊長?」
「わ、分かったよ。あと、風翔隊長はやめて」
水希く……水希は、何故か超がつくほど僕を尊敬してくれている。嬉しいような、恥ずかしいような、微妙な気持ちになるんだよね。苦手じゃないけど、距離が上手く掴めない。
「分かりましたよ。それじゃあ、これから、よろしくお願いしますね」
「あぁ。よろしく」
水希……青木水希は、蛟という水に関わる竜の一族の者だ。水を操るのを得意とする妖怪なんだよね。
「風翔さんは二年生ですよね。何組ですか?」
「一組だよ。水希は一年三組だよな」
「はい。そうです」
くりくりとした、青色の瞳が僕を見る。水希って、可愛い系男子ってやつだよな。他の残りの隊員はどんな感じなんだろう。
「じゃあ、僕はこっちだから」
「ここでお別れですね。では、また放課後に」
手を振って、二年一組の教室に入る。僕以外の人は、全員人間なんだよな……。息を吐いて、教室のドアに手をかける。
ガラララッ。
ドアの音に、視線が僕に集まる。ドキッと心臓が飛び跳ねた。ど、どうしよう。
「あっ、君が転校生の、緑神くん?」
「あぁ、はい」
学級委員長の女子が話しかけてきた。ちゃんと、人間にも見えてるんだな。少し安心した。
「緑神くんの席は、窓側の後ろから二番目だよ」
「分かった。ありがとう」
ふぅ……席に座れた。他のクラスメイトにバレないように、胸を撫で下ろす。隣の席は、女の子か。うーん、何だろう。気配が他の人と違う気がする。パチリと目が合って、思わずそっと頭を下げた。取り敢えず、まずは学校の方に集中しよう。
「静かにしろー。今日は転校生を紹介する。緑神、自己紹介を頼む」
「はい!」
ガタッと音を立てて、席を立つ。クラスメイトの目がこちらを向くのが、嫌でも分かる。……よし。
「初めまして、緑神風翔と言います」
今日から、人間としての学生生活も始まる。
「えっと、よろしくお願いします!」
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