世界でたった独りの僕と、いてもいなくても誰も困らないおじさんの話

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おじさんは次の日からもずっと家にいるようだった。特に仕事をしていないようだった。 やる事と言えば父さんが座っていた食卓の席でずっと煙草を吸っているだけだ。 母さんは週に四回パートをしている。だから夏休みのお昼はおじさんと食べてね、冷蔵庫に入れておくから。と言われた。次の日僕は昼飯を食べなかった。 そして二日目の夜、おじさんが煙草を買いに行っている間、母さんは僕におじさんにあまり近づかないで、と言った。 「あの人ね、刑務所に入ってたの」 「どうして」 「やくざだったから」 やくざだから刑務所に入る訳ではない。なにかしたから刑務所に入るのだ。僕はもっと聞きたかったが、母さんが「汚らわしい……」と遠くを見つめながら言ったので、僕は母さんをそっとしておいてやることにした。 おじさんが帰ってくると、アイスをくれた。チョコと檸檬のかき氷と高い苺のアイスクリーム。おじさんはどれがいい?と言いながら母さんに苺のアイスクリームを渡していた。母さんは黙ってそれを食べていた。 僕はチョコを選んだ。 三日目の昼、僕は冷蔵庫を開けると焼き飯が丼に二つ入っていた。おじさんは相変わらず煙草を吸っていたので、「焼き飯温めますか」と聞いたら「ありがとう」と返ってきたので僕とおじさんの分を温めて一緒に食べることにした。そしておじさんは、母さんの弟だということが判明した。僕が知らなかった、と言うとおじさんはだろうね、と言って焼き飯を口に押し込んだ。相変わらず、べちゃべちゃしてるなあ姉貴の焼き飯、と言って笑った。 「俺はあんまり姉貴に好かれてないからな」 「それは」 「うん」 「やくざだからですか」 そう僕が聞くと、おじさんはきょとん、としてから難しい質問。とお道化て言った。 それからおもむろに白いシャツをめくり上げると、なにが描いてあるか解らないが、カラフルな肌が見えた。 「俺が馬鹿だから」 「馬鹿だと嫌われるんですか」 「お前は馬鹿と友達になりたいの?」 「……性格が良ければ。僕も馬鹿だし」 「お前は良い子だね」 そう言っておじさんは焼き飯を食べるのを諦めて、煙草を吸った。 僕は焼き飯に醤油とホワイトペッパーをかけながら、言った。 「刑務所行ったって、何したんですか」 そう言うとおじさんはヒトゴロシ、と言って笑った。 それを僕がそうですか、と言ったので本当は傷害です。と言い直した。 でも、とおじさんは続けて言った。 「殺す気でやったのに、生きてたんだよなあ」 だから、俺は半分ヒトゴロシなんだと思う。と真剣な顔で言うものだから、僕もそう思いますと言ってあげると、おじさんはありがとう、と頭を下げた。
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