世界でたった独りの僕と、いてもいなくても誰も困らないおじさんの話

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夏休みの半ば、僕は塾の夏期講習で一泊二泊の泊りがけで勉強をやらされていた。もうすぐで受験なんだぞ、余計な事をしている暇はないぞ、高校生になってからその台詞は何度も聞いた。僕は頭が悪いわけではないが、母さんの希望で国立を目指していたので少し難しいか駄目か、の微妙なラインだった。僕は塾で知り合った細川と一泊二日一緒にいたが、多分こいつとは受験が終わって塾をやめると一生会う事もないんだろうなと思いながらも結構楽しい時間を過ごした。 家に帰ると玄関に男物の靴が二足あった。ただいま、と言うとおかえり。という声がどこかでするけれど姿が見えない。リビング、台所、母さんの部屋、おじさんが使っている和室、僕の部屋。いないなあ、と思っていると、トイレから水音がして、知らないおじさんと僕のおじさんが出てきた。 「おかえり」 「ただいま」 ぼくらがそう言っていると、知らないおじさんは黙って台所に立って蛇口をひねるとうがいをした。なんだか目つきの悪い人だった。 「じゃあ俺は帰るから」 と言って僕に挨拶もなく帰っていった。僕はその頃おじさんに遠慮がなくなっていたので、「あの人とトイレで何をしてたの?」と聞くとおじさんは気まずそうに「わかるだろ?」と僕に聞いたので、僕は「ゲイなの?」と聞くとそうじゃないと言う。でも、やるしかない時に、男はできるもんだと言っていた。 「匂いとか、そういうの母さんは敏感だから気を付けて」 そう言うとおじさんは僕を見た。それからなぜか、手を伸ばすおじさん。そしてなぜか手を伸ばす僕。僕らは手を繋いでトイレに入った。無言でおじさんは便器の前に僕を立たせてしゃがみこみ、僕のジーパンを腰までおろしてからパンツもおろした。 僕はどうしてだか、死にたいと思わなかった。そんなことよりもおじさんの口の中で自分の性器が育つ感覚に頭が狂いそうになって大変だったからだ。すごく気持ちよかった。あったかいし、気持ちよいし、おじさんは楽しそうに僕の性器をしゃぶるし。 僕は死にたい、と思わなかったが、射精する時に死んじゃう。と思った。 「な、掃除するなら一人の匂いも二人の匂いも一緒だからさ」 と言っておじさんはトイレ掃除を念入りにし、僕はおじさんの口がすごく気持ちよくなる入り口だと知り、母さんはスーパーの袋を抱えながら帰ってきたなり「あんたの同級生のツトムくん所、離婚するらしいわよ……汚らわしいわねえ」と言うのに夢中でトイレの異変に全く気が付かなかった。 ちなみにあの男の人は、おじさんが本気で殺そうと思った人らしい。
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