世界でたった独りの僕と、いてもいなくても誰も困らないおじさんの話

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おじさんに性器をしゃぶってもらってから、僕は少し変わってしまった。 死にたい、と思うよりしゃぶってほしい、と思うようになったのだ。 おじさんの顔を見るとそればかり考えるので、ぼくは昼ご飯をつめてどこか公園とか、図書館とかに避難するようになった。 三時くらいに帰るとおじさんはいつもの椅子に座って煙草を吸っている。ただいま、と言うとおかえり、と言ってくれる。 それからまた煙草を吸う。 僕はしゃぶって、と言いそうになって慌てて部屋に駆け込んだ。 オナニーはしたことがある。でも、あまりやりたくない。それは中学の時、お風呂でオナニーをしてたらいきなり母さんが入ってきた。 「汚らわしい!お前は私の子じゃない!」 と言ってバシバシ僕を叩きながら泣いていた。おばあちゃんは僕にごめんね、と言った。 でも僕は死にたいなあ、としか思わなかった。ずーっと死にたい、死にたい、死にたい、と唱えたら、目の前がセピア色になって母さんがなにを言おうが僕は気にならなくなる。母さんが僕を殴ったのは母さんのせいではない。 どちらかと言うと父さんのせいだ。でも父さんは母さんのせいにして、母さんは父さんのせいにするが、僕が生まれたのはじゃあどちらのせいにするんだろう、と僕は思っている。でも僕がそんなことを言うと、きっと涙を流してお前は大事な子供だよ。とでも言うんだろうな。多分道徳のテストに出てたら全員が正解するくらい簡単な答え。 でも僕が欲しいのはもっとぐちゃぐちゃでどろどろで汚らわしい部分なんだ。 僕が想像する以上の物を、親なら僕に与えてくれと思っている。僕が想像できないところで世界は進んでいると思わせてほしい。十代の少年が知らない事を知っているのが大人だと思わせてほしい。 この町が嫌いなのは、僕が小さい頃から皆、進歩していないからだ。 誰が離婚した、あの人は意地が悪い、あそこのスーパーは質が悪い。 この町にいたら僕は今の僕のままで死んでしまいそうだ。 三十年後も年老いた母さんの「あそこの竹田さん浮気したの、汚らわしいわねえ」という台詞をきかなければいけなくなりそうだから、僕はこの町が嫌いなんだと思う。 そんなことを思いながら僕は少し居眠りして、起きたら午後五時だった。リビングに行くとおじさんはいるけど母さんがいなかった。 「母さんは?」 「今日は飲み会に行くってよ」 「珍しいね」 「お前さ」 唐突におじさんが自分から話しかけてきた。僕はうん、と頷くとおじさんは俺の事避けてる?と言ってきたので僕は正直におじさんの顔を見るとしゃぶってほしくなると申告した。 おじさんはくわえていた煙草をぽろりと落として、あわてて拾いながらうん、そうか。と言ってから。今度の日曜、大きな街にでも行くか?と聞いてきたので、どうして、と聞くと。 「ラブホテル行こうよ」 と爽やかに言った。僕は未成年だよ、と言うとだから?と言った。男同士だけど、と言うと、でもしゃぶってもらいたいんでしょー?と実にむかつく言葉遣いをしてきたので僕もむかついて、大声でしゃぶってほしいです!と言ったら馬鹿、と新聞が飛んできた。 その日、母さんは帰ってこなかった。
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