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おじさんの知り合いのレストランはすごく綺麗な所だった。というより綺麗なおねえさんが店主だった。レストランは実はまだ開店していなかった。明日からだと言う。でも僕らにはご飯を作ってくれた。おじさんは封筒を差し出し、お姉さんは笑顔になっていた。それから僕の話になった。
「この子あんたの隠し子?」
「おう」
「うそ、本当に?」
「甥っ子だよ。今姉貴のところに世話になってるから」
「やっぱりね。育ちが違うわよ」
「なんだよそれ」
「すれてないもん。あんたといたらあんたみたいになる」
「そりゃ、そうだ」
そう言っておじさんは笑って、煙草吸わせろと言った。綺麗なおねえさんはおじさんを厨房に案内し、そこで吸え、と言った。厨房では怖そうなお兄さんとおじさんが笑って煙草を吸っていた。おねえさんはカヨコと言った。カヨコさんは銀座のホステスをしていたが、フレンチのシェフをしていた人と結婚して、二人でお店をやることになったらしい。
「あの人刑務所に入っていたことは知ってる?」
とカヨコさんはこっそり聞いた。僕は頷いた。カヨコさんはそっかー、と言って笑った。
カヨコさんが言うには、おじさんは自分が開店日に来たら迷惑がかかるかもしれないから金だけ渡しに行くと言っていたそうだ。でも、それでは申し訳ないからオープン前にご飯を食べにきてくれと言っていたらしい。
「まあ、早い所、堅気になってほしいわよね」
とカヨコさんが言って、おじさんがまだやくざなんだ、ということに久しぶりに気が付いた。
ホテルに向かったのは八時くらいだった。レストランでだらだらして、それから折角東京に来たんだからとシブヤやハラジュクで服を買ってもらった。僕がおじさんの懐を心配していると、おじさんがバーカ、と言った。
「一応、大人だからな。ない時はないっていうさ」
「でも無職でしょ?」
「まあ、色々さ」
そう言っておじさんは言葉を濁した。そして、シブヤのラブホテル街に入ると、おじさんは僕と手を繋いだ。
僕がおじさんの腰に手を回すと、おじさんは黙って僕の肩を抱いてくれた。
飛び込みで入ったホテルは少し古い造りらしく、風呂場と部屋を繋ぐ壁が透明だった。先に風呂に入れよ、とおじさんが言ったけれど僕はその透明な壁にドギマギして立ちすくんでしまった。するとおじさんが一緒に入ろうと言ってくれた。お湯が浴槽にたまるのを待ちながら、おじさんは僕の性器をしゃぶってくれた。
それからおじさんは服を脱いだ。
カラフルだと思っていた肌は、一枚の絵になった。帝釈天が背中にかいてあった。よくわからないけど綺麗な花が沢山描いてあった。萎えるか、とおじさんは僕に聞いたが、僕の性器を見ればそんなことはまったく問題ない、と解ったんだろう。若いって怖いなといいながらトイレで支度してくると言ってトイレに行った。僕はよく解らないのでシャワーを浴びていると、途中からおじさんがやってきて、後ろからキスをしてきた。すごい事だ、と思った。昨日まで普通に話していた人間が、いきなりキスする関係になるとは思わない。僕のセオリーでは、「付き合おう」と言ってからキスとかセックスとかするんだと思っていたが、おじさんが最初に僕にしてくれたことはフェラチオだった。そして僕達は恋人でもない。
だけど僕は、なぜか安堵した。母さんが汚らわしい、と言う男二人で抱き合って、キスすることに何の違和感もなかった。シャワーが降り注ぐ中で僕達はキスをして、浴槽の中でおじさんが僕の上に乗ってきた。穴の中をほぐしてくれ、と言われて僕はおじさんの穴に僕の指が入っていくのを最早感動的な思いで見ていた。それからおじさんは、カラフルな肌を僕に擦りつけて、僕の性器はおじさんの穴にすっぽりはまってしまった。
でも僕達はなにも言わなかった。
愛しているも好きも言わなかった。痛い、とかもうちょっと違う角度で、とか、今度はうまく行ったとか。そんなことしか言わなかった。
それからベッドに言って、おじさんは四つん這いになった。渡されたのはローションと市販のコンドームだった。
「いいか、ラブホのコンドームは安いしサイズもあわねーから、ちゃんと自分の合うのを見つけて買うんだぞ」
そう言いながらおじさんが僕につけてくれたのは、ぴったりのサイズでなおかつちゅるん、とチンポが入ったので、そのコンドームの袋を持ち帰ることに決めた。このコンドームさえあれば僕は大丈夫だ。
そして僕はおじさんをバックで犯しながら、目の前に鏡があるのを見つけた。
僕は、おじさんと繋がっているけれど、独りだった。おじさんは、目を瞑っていいぞ、とかそこだ、とか僕に教えてくれている。
僕は僕と視線が合った。そしてそれ以外の誰もいない気がした。
独りぼっちな気がした。
汚らわしい、という母さんがいない。
隣の駅にお腹の大きな愛人と住んでいる父さんもいない。
ここは死んだおばあちゃんの位牌が置いてある家でもない。
ただ、この東京で僕は独りで腰を振っていた。
そしてあの町で孤独なのと、この街で孤独なのは、根本的に違うことなのだな、と僕は射精しながら思った。おじさんはもう一回、とねだり、僕もまだまだいける、と思った。
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