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1.君の目が僕を見ない
恋をすると、誰だって少しは臆病になるというけど。
……正直に言うよ、ユイ。
不安なんだ。
君に、少しだけ距離を置かれているような気がして。
「あれー? どこやったかなー」
かわいい君が、自分の部屋で何かを探してる。
ルームウェアの袖を肘までまくって、ツヤツヤのベージュの髪は、頭のてっぺんでお団子。高校が休みの今日は、さっきまで部屋のお片づけをしてた。
ふふ。先週ママさんに、「いい加減片づけなさい!」って怒られちゃったもんね。
マイペースでちょっと大雑把で、だけど頑張り屋さんのユイ。君のそんなところも大好きだよ、ハニー。
「ときめく?」とかなんとか、口の中でぶつぶつ言いながら、朝からクローゼットや勉強机の中の物を全部出していた君。
おかげで、ベッドの上には洋服が山積み。机の上も、こまごました物でいっぱいだ。
そんな君を、僕はずっと微笑ましい気持ちで見守っていたよ。
途中までは、サポートだってしてたよね。いつも通り。
……だけど、君の目は今、僕を見ない。
「おっかしいなー。絶対なくさないようにって思って」
僕をまるで無視して、さっきからひとりで探し物をしている君。
高まる不安で、僕の胸は張り裂けそうだ。
はじめは、気のせいかと思ったんだ。
だけど違った。
いつもならまっすぐ僕をのぞきこんでくれる、君のきらきらした大きな瞳。
それらはなんの前触れもなく、今日の片づけ作業の途中から、僕に向けられなくなったんだ。
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