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「っっざっけんな!!!!」
思ったよりも大きな声が出たし、思ったよりもゴミ箱は遠くへ飛んでいった。
数メートル先で、歩いていた女子に当たって、中身が散らばる。
だから何だ。
ぼんやり歩いている、陰キャ女が悪い。
いや、1番悪いのは、私をこんなに苛立たせたあいつだ。
どこか外国の雰囲気漂う、端正な顔立ち。切れ長の目は、明るい緑色をしている。すらりと背が高く、それでいて筋肉のついた引き締まった身体。無口だが気遣いが出来て友人想いで、縁の下の力持ちといったタイプ。
そんなドタイプな男に、つい数分前に告白して、呆気なくフラれたのだ。
この私が。
学校中で1番可愛くて、綺麗で、月に10回は告白される程モテて、付き合いたい女子ランキング1位の私が。
『悪い…。俺、母さんより可愛くて綺麗で、優しい女性じゃないと付き合おうと思わないんだ。』
寄りにもよって、そんなフラれ方をする!!??
「ぐうぁあああああ!!!ブチのめすぞ筋肉馬鹿野郎がぁ!!!!母さんってマザコンがよ!!キメェんだよバーーーーカ!!!」
ゴミ箱1個蹴飛ばしたぐらいじゃ、私の心は晴れない。廊下に並ぶロッカーを蹴り、殴り、わあわあと泣き叫ぶ。
側には、私の内面をよく知る友達2人だけ。放課後のこの時間は、誰もいない。こんなところを、見られでもしたら可愛い私のイメージが台無しだもの。
「うわぁー…歩美荒れてるぅ。」
「まぁ、気持ちわからん事もないけどさぁ。物に当たりすぎ。」
ゲラゲラと笑いやがって、このブス共め。あんた達に私の気持ちなんてわからない。
そう。フラれた事がなくて、言い寄られるばかりの私にとって、紛れもない初恋だったのだ。ちょっとカッコイイかもとか、そんなレベルじゃない。見た目も優しいところも勿論タイプだが、私が惚れたのは他のところ。
空手の試合で、彼の姿を見た。その時の獰猛な表情と、勝利を見据えたギラついた瞳。一切の手加減なく放たれる拳。勝った時の笑顔。負けた時の真剣で立ち直ろうとする無表情。そんなストイックな姿に恋焦がれた。
「諦めたくないよ…やっぱ無理。」
ロッカーに凭れ、ずるずると崩れ落ちた。
「あ?ちょ、歩美!!あそこ見て!!!」
ブスの1人、友梨佳が廊下の窓を指差す。くだらない事なら、後でぶん殴ってやる。
そう思いながら、ちらりと窓の外を見やった。
さっきまでフラれた悲しさ半分、相手への苛立ち半分だった。それが、全て怒りの気持ちへと塗り替わった瞬間。
「はぁぁぁ!!!??」
腹の底から、そして心の底から、声が飛び出した。
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