師走②

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師走②

*思いつくエピソードを思いつくままに。 *性的表現あり、苦手な方はご遠慮ください。 「いやいやー聞いてくれてホントにありがとなー。サンキューサンキューベリマッチョー。なんだそりゃ! おやじギャグだなー俺もおやじかーはははー」 「コウさん、風邪ひきますよ。寝た方がいいですよ、布団行きましょう。立てますか?」 「たてるよー!」  ああ――立てないじゃん、もう。  巨大なこんにゃくみたいにぐにゃぐにゃと力のない体を支えて何とかベッドまで連れていった。やっとの思いでコックコートを脱がせスウェットのゴム紐を緩めて寝かせることができた。酔っぱらいは重いし面倒くさい。 「ゆーへーくーん。俺は寂しいんだー。よし、今日は一緒に寝よーぜー。ほら、こっちにこい」  いきなり強く腕をつかまれぐいっとベッドに引っ張り込まれた。  え? ええ? ややや、うそ、ちょっと待て待って――。   コウさんの胸に倒れ込み、あっという間に両腕両足で体を丸ごとホールドされがっちりと胸に抱きこまれた。まるで抱き枕だ。  うわ――コウさんと一緒に寝てるよ! マジか。勘弁してくれよもう……。  1分か。5分か。もっとか――コウさんの体温を直に感じて胸が苦しい。  トクトクトクと体に伝わる早めの鼓動。いや、これは俺の心音か。  すーすーと安定したリズムよい呼吸が頭上から聞こえてきた。コウさんは完全に寝てしまったらいい。  拘束が緩んだ腕をそっと外して身体を起こし、アルコールでほんのり赤くなったコウさんの顔をじっと眺めた。ぽかんと開いた口、だらんと投げ出された腕、無防備な寝姿に胸の奥がふつふつと熱くなってきた。はあぁ――くそ。  ――少しだけ、ほんの少しだけ、許してください。  両手でそっと頬を包み込むと、酔いで熱を持った肌は思っていたより柔らかった。額をくっつけ鼻をすり寄せ、まつげが触れ合うほどの距離に体の内側がゾワゾワする。  首筋に顔を埋めよく知るタバコの匂いとかすかな汗の香りを深く吸い込む――コウさんの匂いだ。  唇に触れるだけのキス。やわらかな唇の感触に頭が真っ白になった。優しく上唇を食んでみると意外とひんやりと感じた。下唇を噛んで軽く引っ張ると、ふるんと弾力があった。  小さく開いた隙間からするりと舌を入れ、反応のないコウさんの舌を捉えぬちょぬちょと絡めたあと、舌先で歯列をぐるりとなぞり溢れる唾液を啜り上げ再び唇をあぐあぐと甘噛みする。  ごめんねコウさん、もう少しだけ。言い訳を並べて心のなかで謝るけれど止まらない。  シャツを軽くめくり上げ両手を素肌にずずっと這わせる。ゴツゴツとしているが、肌の感触は酔いのせいか火照ってしっとりとしていた。  固く締まった腹部の筋肉の張りを掌に感じながら胸に進むと、指先が目的の小さな突起を捉えた。ころころと指で刺激し、軽く爪で弾く。親指と人差し指で片方の乳首をきゅっとつまみながら、反対の乳首を乳輪ごと口に含み強めに吸うと少し尖ってきた。  同時に右手をすっとズボンの中に滑り込ませ股間のそれをさわさわと撫でていると、指先が僅かな反応を捉えた。力を入れて握り上下に扱くと、布越しに見てもわかるくらいググッと固く主張しはじめた。  コウさんの雄は熱く、心臓と同じ鼓動を打っている。 「んん――……」  スウェットのゴムに両手をかけたところで、うめき声にハッと我に返った。  心臓がバクバクと飛び跳ねている。呼吸が苦しく頭がクラクラし、体の内が炎で焼かれているみたいに熱くて全身から汗が噴きだしそうだ。  慌ててベッドを降り、コウさんの衣服を整えて布団を掛け、電気を消して逃げるように寝室を出た。  震える両手をぎゅっと握り、呼吸が落ち着くのを待った。散らかったままの皿や空き缶を手早く片付け居間の電気を消す。上着を抱えて階段を下り住居用の玄関からよろよろと外に出た。  本降りになった雪が、人気のない商店街を雪国に変えていた。しんしんと降り続けるそれは、気温の低下とともに粉雪に変わっていてやむ気配はない。  明日のトップニュースは東京の大雪関連に違いない。  刺すように冷たい空気が心を現実に引き戻す。  コートを羽織り鍵をドアポストに入れる。  ふーっと深く息を吐き、フードを被りうつむきながらアパートに向かって歩き始めた。  真っ白になった地面をぎゅうぎゅうと踏みしめ、興奮と後悔、高揚感と罪悪感、そして放出を求めて集まった己の熱と、混乱する心身をクールダウンするように、ゆっくりゆっくりと家路についた。
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