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1:side O
尾張 乃永瑠とは、高校時代からの知り合いだった。
たまたま隣の席になって、話しかけてみたら意外と気が合って、よくつるむようになった。
口数は少なく不愛想な尾張。自分の名前が嫌いだと言うので、ふざけて「のえ」とあだ名をつけて呼んでいたら、いつしかそれが定着していた。
授業中も、休み時間も、下校途中の寄り道も。一緒に居られる限り、常に隣にのえがいた。それが当たり前のように、日々を過ごしていた。
テスト期間の放課後、オレとのえはテスト勉強のため図書室に篭っていた。長テーブルをくっつけたような広い席に、のえと隣り合って勉強道具を広げる。
他にも何人かが静かに自習をしていて。かりかりとペンがノートを滑る音だけが響いていたのだが……そのうち、がやがやと賑やかな女子生徒の集団が入ってきて、オレは思わず舌打ちをした。
小声で「うるせぇな」と悪態吐くと、のえの手が伸びてきて、そっとこちらの目を塞ぐ。そしてオレの名前を呼びながらこちらを注意した。
「真中、グレア漏れてる」
「……え」
「真中」とはオレの苗字だ。
ちょっとでもイラっとすると、すぐにグレアを放ってしまう。舌打ちのように無意識に。これはオレの癖だった。
慌ててグレアを抑えながら「ごめん」と謝ると、彼は「平気」と言って再び教科書に視線を戻していた。
のえは、Subだ。
……『第二性で人を判断してはいけない』と大人は口を酸っぱくして言うけれど、のえに出会ってようやくそれを理解した。
だってのえには、グレアもコマンドも効かないのだから。
そういうオレ……真中 央雅……は、Domだ。ハッキリ言ってグレアのコントロールは苦手。精神状態が乱れると、すぐにグレアを放ち、周囲を威嚇してしまう。
中学時代は喧嘩も、問題行動も絶えなかったものだ。
高校入学後も度々グレアを暴走させてしまったのだが、Subの中でも唯一、のえにだけは影響がなかった。
だから、自然と一緒にいるようになった。
どうしてグレアを受けても平気な顔していられるんだ、と尋ねたことがある。Subなら普通、グレアを当てられると力が抜けてしまったり、その場でDomに跪いてしまうものだ。
だけど、原因はのえ自身も分かっていなかった。
ただ彼は、グレアやコマンドを拒否してしまうらしい。Subらしく振舞えないことを苦しく思っているけれど、Subとして生きたいと思ったことは無いのだと言った。
でも、DomとSubが一緒に居れば、必然的にプレイをしたくなる。これは本能的なものだと、保健体育の教師もそう言った。
のえがSub性を拒んでいたことは知っていたけれど、オレはどうしても彼とプレイがしたかった。
だから「お前がSubになれるように、オレが躾けてやる」と理由を付けて、のえをプレイに誘った。
17歳。それが、オレ達の関係のはじまりだった。
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