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そうして、オレ達は時間をみつけてはプレイの練習をした。
最初はすごく苦労した。中学生で習うようなSubの基本姿勢、「おすわり」すら、のえは出来なかったのだから。
彼は本能的に従うことはなかった。だからせめて、形だけでいいからコマンドの言う通りに動いてみろと、オレは言ったのだ。
オレのアドバイス通り、のえはコマンドに従う事を覚えた。
だけども、違和感は拭えない。
見せかけだけのプレイでは、オレの支配欲は満たされなかった。
「なんでこんなこともできねえの?」
ある日、オレの部屋でいつものようにプレイの練習をしていたのだが……今日の彼はいつも以上にコマンドの効きが悪かった。きっと、本人の体調や気分に左右されるのだろう。
キャスター付きの椅子に座るオレの足元でおすわりしている彼は、グレアから逃げるようにふいっと目を逸らした。
ちなみに、彼が拒否したコマンドは「伏せ」だ。
「こんな犬みたいなマネしたって、気持ちよくねえんだよ……」
「はあ? んだよ、その言い方!」
だけども今日は、オレ自身も機嫌が悪かった。のえと行っているプレイでは、欲求が満たされていない。それが原因でイライラが抑えられなくなってしまっていたのだ。
ぐつぐつと沸騰するような感情と共に、グレアが漏れているのが自分でも分かる。だけど、グレアも苛立ちも抑えられないくらい、オレは自分のコントロールが出来なくなっていた。
「誰のためにこんなことしてると思ってんだよ!!」
「っーー!!!」
怒りのまま、左手で彼の髪をぐしゃりと鷲掴みにする。同時に、腿の上に置かれた手を、そのまま押しつぶすように踏みつけた。
のえは、痛みに表情を歪める。だけども謝罪の言葉を口にする様子はなく、それが更にオレの怒りを煽った。
ーーどうして、オレばっかり必死になってんだよ。
お前だって、プレイくらい出来ねえと将来困るだろ。
だから一生懸命躾けてやってんのに……いつまでもいつまでも「俺には無理だ」って言うばかり。
ふざけんじゃねえ。お前がプレイ出来れば、オレだってこんな不調に悩まされることはなかったんだ。
「お前が恥じかかねえように、躾けてやってんだろーが!」
怒りがピークに達し、感情的にそう叫んでいた。そして怒りをぶつけるように右手で彼の頬を勢いよく打つ。
ーーパンッ!! と乾いた音が響いた瞬間、のえは呼吸を止めたかのように静かになった。
だけど、一発じゃ気が収まらなかった。彼が抵抗してこないのをいいことに、何度も、何度も、頬を打っていく。
気づけば頬は真っ赤になっており、鷲掴みにしていた髪を離すと、のえの身体は床に崩れるように倒れた。
はあ、はあ、と肩で息をする。ひりひりと痺れるように痛む手の平を、ぎゅっと握り拳をつくった。
横向きに倒れたのえを仰向けに倒し、その上に乗る。彼の目尻からは雫が零れ落ちており、こちらの拳に気付いた途端、怯えた表情で「まなか……っ」と声を震わせた。
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