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そんな彼の泣き顔に、ふと、我に返った。
高く振り上げていた拳を降ろし、自分のしたことを思い返していく。
「あ……オ、オレ……ひどいこと……」
……最低だ。怒りの感情にのまれたとはいえ、なんて酷いことをしてしまったのだろう。
後悔と焦りが、同時にオレを襲った。
コマンドに従ってもらえないからって、こんなに打つ必要があったか? しかも相手は親友だ。グレアがまともにコントロールできない自分の傍にいてくれる、たったひとりの親友。
そんな大切な人に……オレはなんてことをしてしまったんだ。
だけど心のどこかに、後悔とは別の感情があった。
ーー爽快感、に近いだろうか。
のえを打った瞬間、スッキリとした感じと、欲が満ちたような満足感を得てしまったのだ。
急いで身体を退け、のえを起こしてやった。そうしていくうちに、オレも感情に混乱し、苦しくなってきて、涙がぼろぼろと零れはじめる。
「ご、ごめん、こんなことするつもりじゃなかったのに……」
「まなか……」
「嫌いにならないで! こんなオレの隣に居てくれるのは、お前だけなんだ! お前しかいないんだ!」
そう泣き叫びながら、のえの身体に抱き着いた。
どうすれば許してもらえるのか分からないけれど、でも、とにかく彼と離れることなんて考えられなくて。
「お前のためにって、必死になりすぎてた……許してくれ……」
のえの肩を濡らしながら、ぎゅうと身体を抱きしめ許しを請う。すると彼は、「わかってるよ」と優しく言いながら、オレのことを抱きしめ返してくれた。
「お前が俺のこと、いつも考えてくれてるのは知ってる。俺がちゃんとコマンドを受け入れられないのがいけないんだ……俺の所為で苦しめてごめん……」
「の、のえ……ごめん~~!!」
彼の言葉に、ますます涙が溢れてくる。
のえは、オレのことをちゃんと分かってくれていた。
オレのしたことを、許してくれた。
ぎゅうっとぬくもりを離さぬよう抱きしめながら、何度も「ありがとう」と「ごめん」を繰り返す。
「のえ……大好き。絶対離れんなよ」
そう言って真っ赤に腫れた頬を撫でたら、「愛の告白かよ」とのえがツッコミを入れてきて。互いに視線を合わせたら自然と頬が緩んで、そのままふたりで笑い合ったのだった。
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