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そこに入っていたのは、黒い革の首輪だった。
ビニール袋に入っているのを察するに、クレイム目的ではなく、ただ遊びで買ってきただけのようだ。
「……これ、俺につけろってことか?」
「そ。プレイの時だけでも着けよっかなーって」
正直、カラーなんて着けたくない。
街中でもカラーを着けているSubを見かけることはあるが……なんであんなものがいいのだろうと疑問だった。
だけどパートナーのいるSubなら、これは着けて当然のアイテム。
真中は「これ着けりゃあ、お前もSubらしくなれんじゃね?」とへらへらと笑っていた。
「俺は別に、Subになりたくねえし。いらねーよ」
らしくなれる、ってなんだよ。
こんなん着けたって、Subらしくなるのは見た目だけだ。
酔っ払いの相手も面倒臭く感じてきた俺は、そのカラーをテーブルの上に置いた。どちらにせよ今日はもう寝たいし、これを着ける気にはなれない。
一度欠伸をしてから、真中に声を掛けようとして振り返る。すると、さっきまでへらへら笑っていた彼から、笑顔が消えていた。
「まなか……?」
「……ざけんな」
ぎゅっと握られた拳。奥歯のギリギリとした歯ぎしりまでもが耳に届く。物凄い形相でこちらを睨む真中の瞳からは鋭いグレアが放たれており、真っすぐと俺を刺した。
先程の一言が真中の逆鱗に触れたのだと悟ったのは、その直後だった。
「……っ、ごめ、まなか、」
「オレがどれだけお前のこと考えてやってると思ってんだ!!」
怒りのグレアに、足がすくんだ。
今日は機嫌がいいと思っていたのに……甘かった。
いや、今日はオレが悪い。折角カラーを買ってくれたのに、突き返してしまったのは間違いだった。
真中はいつも俺のことを考えてくれてるのに……。
彼が怒るのは当然だ。
「そんなにオレのコマンドが気持ちよくねえのかよ!」
「ちがっ……」
「オレのグレアもコマンドも! おまえいっつも嫌そうな顔して受けてんもんなあ?!」
強いグレアに全身の力が抜け、俺はへたりと座りこんだ。そこへ真中の手が伸びてきて、俺の頭をガシッと鷲掴む。ぶちぶちと髪が抜ける音も聞こえ、痛みに絶叫した。
しかし慈悲はなく、そのまま髪を引っ張られるようにして、寝室へと引きづられていく。
「っ、ごめ! まなか! ゆるし……!」
「うるせえな! 喚いてんじゃねえ!」
バンっと投げるように床に叩きつけられ、その身体を上から踏みつけられた。
俺はあっという間に恐怖に支配され、抵抗する事なんて考える余裕はなかった。こうなった真中は、もう止められないのだ。
真中は俺を踏みつけ、蹴り上げ、馬乗りになって殴ってきた。「家畜のがまだ利口なんじゃねーの?」とか「この出来損ないが!」と、いくつもの暴言を吐きながら、俺へ怒りをぶつけ続ける。
真中の暴力を受けながら、俺はこの時間が早く終わるよう祈っていた。
この痛みは、この辛さは、出来損ないの自分の所為。
高く振り上げられた拳を見つめながら、俺は自分の性を呪うばかりであった。
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