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真中は、怒らせなければいい奴だった。
いつも俺のことを考えてくれて、コンビニでスイーツを買ってきたり、課題に追われている時は夜食を作ってくれたり。
ベッドに誘えば断ることなく、優しく抱いてくれる。好きだと愛を囁いてくれる。だから何度殴られても、真中を嫌いになるなんてことは無かった。
あの日もらったカラーも、プレイの度に着けるようになった。
出来損ないのSubでなければ、きっと、気持ちよくなれたんだろう。
普通のSubなら、カラーを着けてもらえるなんて、これ以上ない幸せなのだろう。
俺が出来損ないでなければ……そう思う事は多かったけど、でもそんなことは真中には関係のないことだ。
カラーも暴力も、俺が我慢すれば、真中とはいい関係でいられる。
そうして彼と付き合いを続けて……4年。
俺たちは23歳になった。
大学を卒業後、俺は不動産会社へ就職。真中は大学時代のバイト先で、そのまま就職をしていた。
その日、俺は内見の案内に向かっていた。
駅から10分ほどの距離にあるマンション。去年、そこに住んでいた老夫婦が施設に入ったので、売りに出ている物件だった。
リフォームも済んでおり、新築同様に綺麗な部屋なんです。とお客様に案内しながら、エレベーターを待つ。
数秒後、ぴんぽん、と軽快な音が鳴りドアが開いた。
上から降りてきたエレベーターには人が乗っており、俺はゆっくりと相手を認識し、一瞬、言葉を失った。
「……ま、なか?」
「え?」
名前を呼ばれ、相手も驚いたような声を出す。
エレベーターに乗っていたのは間違いなく真中で、隣には綺麗な女性がおり、べったりと腕を絡ませていた。
浮気だった。
仕事中でなければ、きっと修羅場を化していただろう。だけどその時は、彼の名前を呼ぶ以外になにも出来なくて……。
真中は気まずそうに、早歩きで俺の横を通り過ぎていった。
浮気をしているなんて疑ったことはなかった。まさか、まだ遊び癖が直ってなかったなんて。
今日だって「仕事」と言って家を出ていったのに……実際は浮気相手の家で過ごしていたのだろう。
その日の夜は、大喧嘩になった。
なんといっても、真中は全く反省してなかった。「ちょっと遊んでた」、「お前も男なんだからわかるだろ?」と平置き直る始末。
そんなの許せるわけもなく、真中を責め続けた。しかし真中は「女みてぇに面倒くさいこと言うなら別れる」と言い出したのだ。
「別れたいのはこっちだ!」
「あっそ。じゃーさっさと出てけ!」
「言われなくても出てってやる!!」
売り言葉に買い言葉を繰り返し、俺は最低限の荷物をもって家を出た。
しばらくの間カプセルホテルで寝泊まりをしつつ、職場で手ごろな物件を探し、即契約。真中と顔を合わせないように引っ越しを済ませ、俺は真中から離れたところで一人暮らしをはじめた。
真中の浮気を目撃してからの日々は、あっという間だった。
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