目が覚めるとそこは

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 目が覚めると俺は、自分の家にいた。  柔らかな朝の日差し。温かな布団。見知った天井。昨夜のことはひどい悪夢だったのかもしれない。一瞬そう思ったが、すぐにアレは現実だったと思い知らされる。  「おはよう。死んじゃったかと思ったわ」  「ゴッ……」  喉まで出かかった「ゴリラストーカー」という言葉を飲み込む。胃液で焼けた喉がヒリヒリと痛い。スーツはちゃんと上下着ているが生臭いし、よく見れば肌にも赤黒い模様が残っている。そうだ。俺は路地裏で化け物に襲われて……コイツに助けられたんだった。多分。一応。  女は迷うことなく台所へと向かって、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出した。  「ほらこれ。飲むといいわ」  「お前……」  そのあまりにも自然な動作に違和感を覚える。なんでそっちが台所だと知ってる。俺が寝てる間に部屋を物色したのか?いや、そもそもおかしい。だって俺はあの後気を失ったはずだ。この怪力女なら俺を運ぶこともできるだろうが、そうだとしても、やっぱりおかしい。  「な……なんで俺の家、知ってんだよ?!」  「あら? それくらい分かるわよ」  彼女はとんでもないことを平然と言ってのけた。それどころかまるで変なのは俺の方だと言わんばかりにクスクスと笑っている。  いや、おかしいだろ。知ってるわけないんだよ。昨日初めて会ったんだ、名前も知らないんだぞ。そんな奴が、俺の家を知ってるはずがないんだ!  「やっ……やっぱりストーカーじゃねーか!!」  「すとおかー? 知らないけれど、それはもしかして悪口かしら?」  「なにをとぼけてんだ?! 今すぐ出てけ!!」  「あらあ、いいの? また昨日の子みたいなのが来ても知らないわよ」  それを聞いてスマホをタップしていた手が止まる。俺はとりあえず1、1、0を押した画面のまま、ゆっくりと女から距離を取った。  「……アレは、なんなんだよ。それに、お前は誰だ」  「本当に覚えてないの? そんなはずないのだけれど」  彼女は困ったように眉をハの字にした。そんな表情までいちいち腹が立つほど画になる女だ。  「昨日のアレは、影鰐よ。人の影を食べる妖怪。影鰐に影を食べられちゃった人間は死ぬの」  「よ……妖怪……?」  「そう。まだ忘れてるみたいだから教えてあげる。あなたはね……すごく美味しそうなのよ。妖怪たちにとって」  女は赤い唇をペロリと舐めた。それだけ切り取れば妖艶な仕草だが、彼女の言葉と合わさるとゾッとする仕草に変わる。  警戒心が伝わったのか、女は鈴を転がしたような聞き心地の良い声で笑った。  「ふふ、大丈夫よ。私はあなたをとって食べたりしないわ。だって妖怪じゃないもの」  それを聞いて少し安心する。「あれは妖怪だった」などと説明されたら普通不安になるものだろうが、俺は確かに  ホッとしたのも束の間、彼女はうっとりとした目で俺の身体を舐めるように見回した。  「妖怪たちがあなたを美味しそうと感じる気持ちは分からなくもないけど、ね」  「なっ……」  やっぱりこの女、信用できない。
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