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ピザトースト
喫茶店に行くと
確認せずには
いられない
どうしても
"ピザトースト"
を探してしまう
…
昔母が作ってくれた味
スーパーで買った6枚切りの食パン
マヨネーズを塗ってケチャップ
たっぷりのピザ用のチーズ
私の好きなウインナー
母の好きなベーコン
のどちらかをのせ
トースターでカリッと焼く
おっちよこちょいな母
"今日もまっくろくろすけなの?"
私はくろすけを
きれいにとることを覚えてしまっていた
そこには笑っている父が
いたんだよなあと物思いに耽る
彼はどうしているだろう?
私は父を彼と呼ぶ
父というより彼のほうが
しっくりくるからだ
彼は自由人
なににも囚われず
ただ日常を素直に生きていた
自分のことを愛していた
生きるものを愛していた
もちろん、母も愛していた
私のことも深く愛していた
あと、ピザトーストもね
だが彼は突然消えた
"したいことを叶えるために
どうしても離れなければなりません
いつまで経っても愛しています
パパ"
置き手紙
字はじぐざぐだった
仕方なかった、彼は自由人だから
あの頃の私は混乱していた
"パパどこいっちゃったの…?"
"どこだろう、ね"
今でも母の顔が忘れられない
ごめんね、聞いたりして
今なら何も言わずに抱きしめるよ
私たちはふたりぼっちになった
それでも母は暗い顔ひとつせず
生きるために戦ってくれた
私に他の人よりも
たくさんたくさん愛情をくれた
彼は遠くから
愛をくれていたのかな
今もあの手紙を信じている
私には愛しているものがあった
たまに朝ごはんにでてくる
"ピザトースト"だ
朝起きたら香りで分かるんだ
風にのってやってくる
香ばしくてとろとろした匂い
母は光とともに現れる
とても眩しくて目は開けづらい
"おはよう"
"おはよ、ございます"
"今日は朝から…"
"ぴざとーすと?"
"そう!ピザトースト!"
そういってとびっきり笑うんだ
…
あの瞬間が忘れられない
ひだまりの中にいるような
あったかくて気持ちがいい
私は心から母を愛している
どんなに辛い時でもいつも変わらず
ピザトーストを出してくれる
喧嘩をした日も上手くいかない日も
いつだって出してくれる
この当たり前は
当たり前なんかじゃない
ふたりぼっちになったとしても
母は私の思い出を守ってくれたんだ
特別な味
"ピザトースト"
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