モーニングセット

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頭の中では逃げる口実も 今からの動きも全て   シュミレーション済み あとは動けばいいだけ 寝ている君が寝返り 私の方を向いた 嗚呼、なんて辛そうな顔 お酒の飲み過ぎね この世のなによりも美しい 何故かそう思った それをみて動けなくなった いや、動きたくなかったんだ 彼との先はない  でもこのまま美しいものを見ていたい 温もりから離れたくない 時間をみようとしたが近くにない 昨日どこかに投げたであろう 遠くに手を伸ばしたら、携帯 返さなきゃいけないと思いながらも 通知を全て消し、彼の頭を撫でた これが最後のチャンスだ 彼が嫌な顔すればもう逃げてしまおう 嫌な顔をしてくれと願う私と 心地よく眠っていてと願う私がいた 彼は顔をひとつ変えず子供みたいに寝ていた もう決まっている いや、決まっていたはじめから  この瞬間を大切にしたいってね 全てアルコールのせいにしてしまおう 仕方なかったんだと言い訳しよう 私は彼が寝ていることをいいことに ひっそりと肩に寄り添い眠りについた 丁度おちるか落ちないかぐらいだった "起きてるよ、頭はね" 私に触れて少し抱き寄せられた そう聞こえた気がした 早朝に目が覚めた 同じように彼も起きた "おはよ、いまなんじ?" "5時すぎ、かな" "まだはやいね、ねよねよ" "うん" そのまま彼に引き寄せられ、  私の胸に顔を埋めた  "いい匂い、落ち着く" 浮ついた気持ちのせいか シーツが薄ピンクに見えていた そして優しく腕の中に入れてくれた 少し体制を変えようと動こうとしたら "はやくお別れしたいの?"とろんとした目で "そんなことないよ"しか思いつかなかった この会話には何も詰まっていないんだ ドーナツの穴みたいに外側がとても甘くても 真ん中は空洞なんだ美味しくないね、ほんとに りりりりりり りりりりりり 電話の音で起きた ホテルにはモーニングがついていた "ちゃんとした朝ごはん久しぶり" "そうなんだ?" "いつも適当だから" こんがりしたトーストに齧り付いた コーヒーを飲もうとして  あちいと言って水を飲んでいた彼 普段はどんなだろう?ふと考えてしまった "私はちゃんと食べちゃうなあ" "ぽいね?" "でしょ?" 意味のあるのかないのか 普通の会話したら 昨日のことがなかったことになって 友達になれるなんて馬鹿じゃない? 私は熱いコーヒーをごくっと飲んだら 彼はすごいなって目で私を見つめた ぬるいコーヒーが良いと言った "猫舌だから" 納得だった 人の懐に入るのが上手そうだし 甘え上手で素を見せているようで 本当のことは見せてくれない、らしい 手を絡ませていて思ったが 体温はずっと熱いし目は眠そうだ 猫舌がぴったりだね にゃあと言い出しそうだ "もう行かなきゃね" "忘れ物しないようにね" "いこっか" この美しい世界と離れなければならなかった 違う私になれたのにな 外に出たら現実 日は私たちを差していた 眩しくて目を開けれそうになかった   繋いでいた手はさらり、と離された "じゃ、ばいばい" あったかそうな天気だが 見た目より寒くて風が冷たく吹いていた 私たちは反対方向へ歩き出した 振り返ってみたけど姿は見当たらなかった … 一人で喫茶店に行くのが好きだ わざわざ時間を調べて出かける そして頼むのは コーヒーとトーストの "モーニングセット"
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