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"お待たせ"
スズさんはやってきた
彼は彼女をみて立ち上がった
"おめでとう"
そう言うと
一本の花を出した
"些細かもしれない、気持ちだよ"
"わたしにくれるのかい?"
"もちろんだよ"
"なんだか若返った気分だよ"
スズさんはふふっと笑って
ありがとうと言った
私にはきらきらしてみえていた
どれだけ歳を取っても
輝ける人でありたいと思った
からんからん
見たこともない男性が入ってきた
珍しさにマスターがでてきて
"いらっしゃい、珍しいね"
と言った
"気分転換にきました"
と彼は言った
黒髪はつやつやしていた
歳は私と同じぐらいだった
いつもと違う状況に
なぜだかどきどきしていた
すみません、と彼が呼んだ
"ナポリタン下さい"
"うちのナポリタンは美味しいですよ"
ついいつもの調子で答えてしまった
すると
"楽しみだなあ"
そう言ってひまわりみたいに笑った
その顔は夏を思い出させた
近くにひまわり畑があった
夏になる前に近所のひとたちが
子供が遊べる場所を作っていた
ひまわり迷路、好きだったなあ
見上げると青い空で周りは黄色
たまに緑がみえていた
なかでぐるぐるするのが好きだった
そんなことを考えていると
ナポリタンができていた
"どうぞ"
彼はいただきますを言って食べた
"おお、美味しい"
と言った
彼は食べ終わると
なにか勉強をはじめた
"もうすぐ、受験なので"
この人はどこを受けるんだろう?
そんなことを思いながらも聞かなかった
彼はその日から毎週、同じ時間に現れた
頼むのは"ナポリタン"
密かに常連のご老人たちが
ナポリタン青年と名付けていた
これはないしょの話だ
私は週4,3くらい働いていたから
ほとんど顔を合わせていた
"おかえり"
"ただいま"
と言い合っていた
夏が過ぎはじめていた
勉強の話や友達の話も
するようになっていた
秋もあっという間に過ぎた
いつもひまわりみたいに笑っていた
寒い冬があけて春がやってくる頃
からんからん
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