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「パパ……」
行かないでって言いたくなった。
だって、こんな所に1人はいや。
「アリサはさ、他の子よりいい子だから大丈夫だよな? パパもお仕事がんばるからな」
そう言われてわたしは何も言えなくなった。
「……うん。そうだね。パパ」
「じゃ、よろしくお願いします」
パパはそう言って車に乗るとエンジンをかける。見送る石田のおじさんとわたしに窓から手を出して合図すると、なめらかに発進して遠ざかっていった。
行ってしまった……。
パパは、わたしをのこして。
「アリサちゃん、おうちに入ってお部屋を案内してあげるよ。それからおじさんの家族もしょうかいするね」
優しく言ってくれたおじさんにそっと背中をおされて、お屋敷の中に入ったんだ。
さっきの石ころがあるお庭を通ったとき、たくさんのお花が咲いてるのが見えた。
夏のヒマワリはとても高くのびていて、おひさまに向かってあいさつしているみたいだわ。それから名前は分からないけれど、真っ白なお花もあったの。
それから、灯ろうっていうのかしら? 中に火が灯るようなものも見えたし、池にはお魚もいるみたいだった。
きっと、わたしの知らない生活のはじまり。
この時のわたしは、大人の言うことを聞いてちゃんとしてればおうちにかえれるってずっと思ってたんだ。
このときはね。
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