依頼

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私には霊感なんてものはありません。 だから私が霊のせいで怖い目にあったことは一度もありません。私が心配しているの娘のことだけです。私の娘には多分そういうものがあります。それはずっと前から、あの子が生まれた時からです。あなたには理解してもらえると思いますけど、霊感があるんですよ。それもとても強いんです。どうして娘に霊感があるのか、私にはよくわかりません。私の周りには霊感を持っている人なんて娘以外にいないんです。私の親も、親戚も、誰もそんなこととは縁がありませんから、どうして娘だけがそんなことになったのか、全く見当もつきません。 最初はあの子が私たちの気を引くために奇妙な作り話を始めたんだと思いました。「お母さん、あそこに髪の長い女の人がいるよ!」なんて言ってね。私も気味が悪いと思いましたから、何度も止めるように言いました。だけどあの子はずっとそんな調子でしたから、私もそのうちに、それが嘘じゃないと、少なくともあの子にはそういうものが見えているんだとわかるようになりました。私の夫はそういうものを全く信じない人でした。そして、娘がそういう話をすることをとても嫌がりました。彼は、娘はおかしくなってしまっていて、手遅れにならないうちに病院に連れて行くべきだと言いました。だけど、私は反対したんです。風邪をひいてお薬をもらいに行くならともかく、自分の娘を、精神科だとか、そういうものに連れて行くなんて考えられませんでした。でも、そんな娘をそのままにしておくわけにもいかないと思いました。少なくとも、私たちには誰か、私たちよりもこの問題について詳しくて、それを解決してくれるような人が必要でした。 だから私は霊能力者と呼ばれる人たちに頼ることにしました。夫は嫌がりましたけどね。彼らに頼ることを決めて、少しだけホッとしていました。きっと誰かがなんとかしてくれると思いましたから。だけど、結局誰もなんの役にもたってくれませんでした。彼らによると、霊感というのは持って生まれたもので、それを後から取り除いてしまうことはできないものらしいのです。そして、強い霊感は、霊を、それがいいものであれ悪いものであれ、引き寄せてしまうことも、これもまたどうしようもないことだというんです。それは受け入れ難い話でしたよ。霊感なんて持って生まれたせいでこれからずっと気味の悪いものを引き寄せてしまうなんて、考えたくもありませんでした。 だけど、私の心配をよそに、娘の方は今日まで健康に育ってきました。あの子は私が考えるよりもずっと強い子供でした。最初のうちは霊を見て怖がっていたのですが、少しずつ慣れてしまったようなのです。私もそれを見て、彼らの言うように、この娘の性質となんとか折り合いを付けながら生きていくことを現実的に考えられるようになりました。だから、それから何もなければ、私はこんなふうにあなた達に依頼をすることもなかったでしょう。 事情が変わったのはちょうど三年ほど前です。夫が亡くなりました。バイクの事故でした。実は彼は昔から浮気の絶えない人でしたから、私もその頃では愛想を尽かしてしまっていて、ショックではありましたが、そんなに悲しい気持ちもしませんでした。だけど、娘の方は私よりも父親の方に懐いているような子供でしたから、それはもうひどく悲しみましたよ。毎日、泣き喚いていましたから。あの子はそうなると本当に手がつけられない子なんです。あなただってあの子がどんなふうになるかご存知なら、少しは私に同情してくださるでしょう。まあ、問題はそのことじゃありません。私の娘は夫が死ぬ少し前から奇妙なことを私に言うようになりました。「お父さんに張り付いてる女の人がいるよ」ってね。娘がそういう話をすること自体は珍しいことじゃありません。だから私も別に気に留めてはいませんでした。だけど、私が相手にしなくても、何度も何度も私にそのことを伝えてくるのです。「今日もいるよ。」「今日もだよ!」って、何度もです。なんだか警告じみていました。そして、その矢先に夫が死んだわけですから、ただの偶然とは考えられません。私はついに、霊のせいで不幸が起こったんだと思いました。そして、心底恐ろしくなりました。次は私か、それとも私の娘かもしれないと思いました。娘とはこのことについて話し合っていません。なんだか、私の方が恐ろしい気がして、話せないのです。 ちょうど一年ほど前に、私たちはこの街に引っ越してきました。ずっと考えてきたことでしたが、心機一転して、全てを忘れてやり直そうと思ったんです。 住む場所を変えれば私たちに付き纏う悪いものを全て取り払ってしまえるような気がしました。それで、この家も新しく建てました。娘も喜んでくれて、よかったと思いました。あの子が前に通っていた学校を辞めなければならなくなったことは申し訳ないと思いましたが、今は新しい学校にも馴染んで楽しくやっているようです。その時はきっと全てうまくいくと思っていました。だけど、やっぱりそう簡単にはいきませんでした。娘はまた、この家にも女の子の霊が住み着いていると言い始めたのです。そして、それは今あの子の部屋に留まっていて、あの子の話し相手になっているとまで言うんです。私はそれを聞いて、表には出しませんでしたが、心底うんざりしました。どうして、都会を離れて、こんな遠くまでやってきて、新しい家まで建てて、またそんなものに悩まされなければならないのかと思いました。そんなことがある限り、私はもう安心していられないんです。 私ははっきり言って、霊能力者なんてもののを信じてはいません。なんの役にも立たないくせに、高い報酬だけ請求してくる人たちですから。あなた達に依頼をしたのも、単に評判が特別良かったからと言うだけです。だけど、どうかお願いです。あの子を助けてください。私には他に頼るものがもうありませんから…。  
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