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杏
一緒に仕事をするその最後の週の木曜日も、サトダさんは東京へ行った。
そして何にもなかったように、夜中に電話をしてきた。
エルマーはお家へ帰る。
これが最後の冒険。
あと一章だけ残っている。
お話を終えると、サトダさんは起きていて、「杏ちゃん。エルマー、お兄さんの好きな話なんだろう?」
と突然言った。
「はい。そうです」
「ふーん。お礼、言おうかな」
どうしたんだろう。
「お礼ですか?」
「ん、お礼。本、紹介してくれたわけだから」
私は混乱しているけれど、サトダさんは落ち着いた声だった。
「あの。兄は、施設にいるんです」
「うん。聞いた。遠い?」
「いえ、それほど。兄に会うんですか?」
どういうことなのか、よくわからない。
「ん。迷惑じゃなかったら。エルマーの最後、お兄さんと一緒に聞こうかな」
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