4/34

1750人が本棚に入れています
本棚に追加
/208ページ
 入館証をもらって、家族の部屋で悠ちゃんを待った。 サトダさん、何を思って、週末をわたしの悠ちゃんに費やしているのか。 「あん。あん!」 悠ちゃんが係の人に引率されて、手を振って、やって来た。 ご機嫌はよさそうだ。 サトダさんがはるちゃんに向かい合う。 「佐藤大です」 普通に会釈して、挨拶した。 用意していた東京のお土産を、係の方に確認して、皆さんで、と渡している。 悠ちゃんも会釈して挨拶したけど、少し分かりにくい。 「二ノ宮悠斗です」 と私が訳すように付け足した。 じっと食い入るようにサトダさんを見ている。 「悠ちゃん、佐藤さんと私、一緒にお仕事してるんだ」 「悠ちゃん、エルマー好きでしょう?」 「佐藤さんも好きなんだって」 悠ちゃんが頷く。 「読む?」 手をパタパタするから、聞きたいんだと思う。 「最後のとこでいい? 佐藤さん、最後の所、聞いてないから」 「すみません。俺に合わせてもらって」 ソファーに座って、最後の章を読んであげる。 悠ちゃんは私の隣に座ると、いつもの癖で、少し前後に体を揺らしながら聞いている。 サトダさんが斜め前に椅子に座って聞いていた。 昼間、サトダさんに読むエルマーは不思議な感じがする。 悠ちゃんには、いつものことだけど。 最後まで待たずに、悠ちゃんが立ち上がる。 部屋の隅でついていた、他の入居者さんが見ていたテレビに気を取られている。 サトダさんに、そのまま最後まで読んだ。 あっけなく、エルマーは冒険を終えてしまった。 「途中で飽きちゃうんだけど、好きなんですよ」 「そうなんだ」 こんな時でも、サトダさんは落ち着いている。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1750人が本棚に入れています
本棚に追加