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係の人が近づいてきて、近況報告をしてくれる。
「明日は、庭でピクニックの予定です」
悠ちゃんはこっちに来ると「あー、あー」とテレビを指して怒りだした。
「雨かな?」
あぁ、これは、機嫌が悪くなってしまう。
さっき、ニュースの後で、天気予報をやっていた。
「雨? 大丈夫だよ」
そう言ってみるけど、悠ちゃんには、きっと大丈夫じゃないんだろう。明日のピクニックが楽しみなんだろうと思う。楽しみだけど、いつもと日程が違うから、不安なのかもしれない。
「雨? 降水確率低かったし、大丈夫じゃないか? 降らないよ、きっと」
少し困ったサトダさんが言う。
30%でも20%でも、0%じゃないと不安なのだ。
悠ちゃんは徐々にヒートアップして、パニックになりかけている。
職員さんが、なだめようしてくれる。
「悠くん、明日、雨ならここでピクニック。ここでピクニックだよ。大丈夫」
あぁ、悠ちゃんを安心させれる言葉があると良い。
家族でも「大丈夫」しか言えない。
抱きしめても駄目な時はダメだ。
大声を上げて、腕を振り回す悠ちゃんを、職員さんが部屋をゆっくりエスコートする。歩いているうちに落ち着いてきた。
パニックが終わって、落ち着いたら、悠ちゃんが胸をたたいて、「ごめん」と言った。
ほかの人にはわからないような音だけど、私はずっと聞いているからわかる。
一度不安要素を見つけると、イベントが終わるまで、いつまた同じように思い出して不安になるかわからない。
ピクニックの話はもう持ち出さないようにする。
そろそろ帰ろうと思う。
「悠ちゃん、チョコあげる」
手のひらにチロルチョコを三つ。
「また来るね」
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