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私は、いつものように、悠ちゃんにハグをして、バイバイをする。
サトダさんは悠ちゃんにちゃんと頭を下げて挨拶すると、職員の方にも挨拶して、その場を離れた。
「また来ます」
職員の方に挨拶して、サトダさんが先に歩きだしたのを見て、
「できれば、母には友人と一緒に来たこと、伏せておいてください」
と付け足した。
私が誰かをつれて悠ちゃんに会いに来たと知ったら、どういうことなのか知りたいだろう。
私だって、どういうことなのか分かっていないのに。
車に戻ると、サトダさんは、
「行こうか?」
と言った。
「せっかく来ていただいたのに、あんな感じで、すみません」
サトダさんは、あの状況の中で落ち着いていたけれど、どう思ったのだろうか。
「俺が急に行ったからじゃないといいけど」
と、逆に気にかけてくれた。
「兄、ああいう感じで、不安になったりすると、手に負えない時があるんです。父も母も対応できなくなって、今、ここにいます。サトダさんのせいじゃないですよ。いつもの事です」
「ん。大変だな」
シンプルな感想だった。
そうだ。大変だ。
大げさな同情でも、的外れなポジティブさでもなく、ただ普通の「大変だ」。
サトダさんらしいのかもしれない。
「はい」
こっちもシンプルに答えたら、
「俺は、お会いできて、よかったと思う」
と、サトダさんは、微笑んだ。
「ご飯の時間まで、ドライブ」
そういうと、車を出した。
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