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高原の高台まで、遊歩道になっているらしい。
サトダさんは、車の鍵をポケットにしまうと、ぐわーっと大きく背伸びして、行こうか、と歩き出した。
あわててサトダさんの横に並ぶ。
色々心配していたことが、ふわーと消えていく気がした。
今日の悠ちゃんの事も、これからの異動も、あんなに不安だったのに、サトダさんの隣にいれば、なんだか全部、大丈夫な気がしてくる。
「サトダさん。今日は、ありがとうございました」
時間を作って、兄に会おうとしてくれた事にまず、お礼を言った。
「あ? まだまだじゃん。ご飯まで付き合ってくれるんでしょ」
サトダさんが笑った。
「なんだか、楽しくなってきました」
楽しくなって、笑うと、こっちを見て微笑んでくれた。
「そりゃよかった」
絶対サトダさんはスポーツをしていたと思う。
どんどん楽しそうに歩く様子を見ていて、そう思う。
野球って言っていたっけ?
「サトダさん、スポーツしてました?」
「あー、中高は部活で。中学の時、野球で、高校はラグビー」
「部長だったでしょう?」
「あれ、話したっけ?」
そういうタイプだ。
「杏ちゃんは?」
とこっちを見る。
日差しが眩しい。
「中学は軟式テニスしてましたけど、高校は弓道です」
「はぁ、弓道か。似合うな」
「別に上手くなかったですよ。真面目にやってたつもりでしたけど」
「だろうね」
どっちに、だろうね?
考えたら、ちょっと歩幅が遅れてしまった。
サトダさんが振り返る。
「真面目にやってた、だろうね、だよ」
と笑って言い直して、こっちに手を出した。
「坂だし。手ぇ」
ちょっとびっくりした。
慌てて、サトダさんの手を取る。
だって、うれしい。
嬉しいけど、たぶん、私、顔が赤くなった。
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