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マンションまで、車で送ってもらった。
今日の昼、お迎えに来てくれたのが、ずいぶん昔の事のように感じる。
車を端に寄せてくれたので、降りる前に少し体を運転席に向けて、ちゃんとお礼を言った。
「今日は、本当に楽しかったです」
本当にそう思った。
「ん、良かった」
低い声が優しく響く。
「ご馳走様でした」
お辞儀をして、お礼を言う。
週明けからは、私は、もう一緒の部署ではない。
階が離れてしまうから、忙しいサトダさんの顔を見ることはなくなるのだろう。
それでも、推してくれたのだから、頑張らないといけない。
急に不安になった。
お付き合いしようと言われたけれど、これまでほど、会えなくなるのかもしれない。
つぎはいつ会えますかって、聞いていいのだろうか。
もう既に重い女なんじゃないだろうか。
適当な恋愛経験しかないのが悔やまれる。
「来週から、もう秘書課で引継ぎになりますから。あの、お電話してください」
それだけ何とか言った。
「杏」
呼ばれて顔を上げた。
サトダさんの目に絡めとられる。
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