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 お店の外で、若い子たちが、カラオケのあるバーへ二次会へ行くと盛り上がっている。 サトダさんを目で追うと、女性社員たちに二次会に誘われているようだ。 「二ノ宮さんもカラオケ、行きますか?」 と梶君が聞いてくれる。 「私は今日はこれで失礼しようかなと思います」 カラオケはあまり得意じゃないし、もうずいぶん酔っている。 お花ももらったし、ちゃんと持って帰りたい。 サトダさんと一緒に帰れるかと思ったけれど、サトダさんが二次会に行くなら、私はタクシーを拾おうかなと、通りを見渡すけど、流れているタクシーは少ない。 駅のほうへ少し歩いて行ったほうが良いかもしれない。 そう思って、近くにいた同僚たちと課長に、これで失礼すると挨拶して、駅へ向かおうと歩き出した。 「杏、送る」 ちょっと大きい声で呼ばれて、振り返るとサトダさんが追いかけて来ていた。 「いいですよ、サトダさん、二次会は? 私、ちゃんとタクシー捕まえますから」 サトダさんを見上げると、 「一緒に帰るって言っただろ」 と笑った。 はっとして、サトダさんのかげから、そっと来た方向を見れば、さっきまでワイワイとしていた同僚の多くがこっちを見ている。 「サトダさん、さっき、名前呼ぶから」 サトダさんだけに聞こえる小声で言う。 「良いんじゃね。俺は部下には手を出してないと誓って言える。気にすんな」 そういって、ははっと笑っている。 「行こう」 軽く背中を押されて、駅へ向かう。 背後に感じる、同僚のざわめきが気恥ずかしい。
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