二ノ宮さん

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二ノ宮さん

 課の忘年会の二次会に出たら、珍しく二ノ宮さんと一緒になった。 同期や課の気の合うメンバーで仕事終わりに飲みに行くことは多いけど、女子社員とはプライベートで飲みに行くことはない。社の飲み会でこうして一緒になるくらいだ。それでも、二ノ宮さんを二次会で見かけるのは珍しいんじゃないかと思う。 「珍しいですね。二ノ宮さんと二次会で会うの」 話しかけると、振り返って「そうですね」とだけ言って、微笑んだ。 一次会から、参加していたようで、もう頬が紅い。 「あんまり普段、飲みに行きませんか?」 と聞いてみる。 「お酒弱いんで、誘われないんです」 と言って、微笑んだ。 酔ってても、いい声の子だと思う。 おとなしい雰囲気で、それほど目立たないが、顔立ちは整っているし、スタイルだって悪くないから男性社員がほっとかないと思うのに、例の『くみちゃん事件』で気を使われて、誘われにくいんだろう。 「へぇ、誘われたら、行くんですか?」 いつもの調子で、何気なしに言ってしまって、後悔した。社内の子には普段、かなり気を付けて話している。 会話のかじ取りを少し間違えた。 二ノ宮さんが顔を上げて、こっちを見た。酔ってる、目が色っぽく見えて、ドキっとした。 「サトダさんだって、誘ってくれないじゃないですか」 かなり酔っているのか、切り返しの角度が思った以上に鋭い。予想してなかった。 「あ、そういえば、そうですね。俺は、どうでもいい同期とくだらない飲み会しかしませんねぇ」 ははは、と笑って、ちらっと周りを見た。 なにか別の話題で誤魔化したいのに、同僚は別の話で盛り上がっていて、こっちを見ていない。使えないやつらだ。
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